7-4:新(あら)たな関係(かんけい)
「いやぁ、美味い大福だった。ごちそうさま」
霧島は、何事もなかったかのように立ち上がると、テーブルに千円札を数枚、スッと置いた。
お釣りはいらない、という仕草だ。
「浅河くん、明日も“定時”で頼むよ。……ああ、そちらの“巫女”さんも、あまり根を詰めないように」
彼は、最後まで完璧な笑顔を崩さなかった。
チリン、とドアベルが鳴り、霧島の気配が夜の闇に完全に消える。
その瞬間。
「――愁さん!!」
詩織が、俺の胸ぐらを掴まんばかりの勢いで詰め寄った。
その顔からは、血の気が引いている。
いつものクールな美少女は、そこにはいなかった。
「あの人……! あの男は危険すぎます! あなた、いったい何者なんです、あの人は!?」
「俺の……会社の上司だ。霧島さんって……」
「上司!? あんなモノが!? 冗談じゃありません!」
詩織の声が、焦りと、わずかな恐怖で裏返っている。
俺は、そんな彼女を見たのは初めてだった。
「あなた、分かってるんですか!? あの人は、私が巫女だと見抜いていた! それどころか、私たちの“家系”すら知っていた! あんな異質な法力……!」
「法力……?」
「あなたは見えないから分からないでしょうけど!」
詩織は、ギリッと唇を噛んだ。
「あなたは……! あの男に、“鬼神”ごと利用されているんですよ!」
利用されている。
霧島の最後の言葉が、俺の脳に蘇る。
『彼が“暴走”したら、俺が責任を持って“処分”する』
あれは、単なる脅しじゃなかった。
本気で「できる」人間の言葉だったんだ。
(俺の上司は、「裏」の世界の人間……?)
(それも、俺たちや詩織とは全く別の……もっとデカい、「組織」の人間……?)
『……小僧。あの女の言う通りだ』
脳内で、玄が忌々(いまいま)しそうに呟いた。
『あの狐男、テメェを“飼ってる”つもりだぜ』
俺は、サラリーマンと“仕事人”の二重生活の、本当のヤバさを。
そして、「サイバー・ガーディアン」という会社の、本当の恐ろしさを、今さらながら自覚し、背筋が凍りついた。
(続く)




