6-8:浅草(あさくさ)の“ケリ”
午前4時半。空が白み始める直前、最も闇が深い時間帯。
俺たちは再び、あの工事現場に立っていた。
『……また来たか、懲りない人間どもめ!』
ヌシが、泥の巨体を揺らして咆哮する。
「懲りないのは、どっちだ!」
俺は、持ってきたジュラルミンケースを開いた。
中には、改造した指向性スピーカーと、アンプ。
「詩織、耳栓しろ! “デジタル祝詞”、最大出力!」
スイッチ、オン。
キィィィィィン……!
人間には聞こえない、超高周波の「音」が、スピーカーから一直線にヌシへ放たれた。
『グ、アアアアア!?』
効果覿面だ!
霊体であるヌシの構成粒子が、デジタルの波形と干渉し合い、激しく乱れる。
「さらに、行け!」
俺がタブレットを操作すると、5機のドローンが一斉に飛び立った。
それぞれに詩織の「破魔の札」を貼り付けたドローンが、ヌシの周囲を高速旋回し、空中に五芒星の軌跡を描く。
『小賢しい羽虫どもがぁ!』
ヌシが腕を振り回すが、ドローンは自動回避プログラムでひらりとかわす。
結界と音響攻撃の二重苦で、ヌシの動きが明らかに鈍った。
「見えました!」
詩織が叫ぶ。
「霊体が乱れて、核が露出しています! 場所は……あの古井戸の底!」
やはり、本体はあそこか!
俺のデジタル攻撃で、拡散していたヌシの霊気が、防御のために収縮し始めている。
泥の体が、見る見るうちに黒い輝きを帯びた「固体」へと変化していく。
(――今だ、玄さん!)
俺は、意識のスイッチを切り替えた。
『おうよ! 待ちくたびれたぜ!』
バチバチッ!
俺の全身に、鬼神の力が漲る。
今なら、触れる。今なら、殴れる!
俺(玄)は、地面を蹴った。
コンクリートが爆ぜるほどの踏み込みで、一気にヌシの懐へ。
『浅草は俺の土地だ! よそ者が勝手してんじゃねぇ!』
右拳に、全ての霊力と怒りを込める。
狙うは一点、古井戸の底に見えた、歪な古鏡――ヌシの核だ!
『――鎮まりやがれぇぇぇッ!』
ドォォォォォン!!
拳が核を砕く感触。
同時に、凄まじい衝撃波が周囲を薙ぎ払った。
『ガ、アア……ァァァ……』
断末魔と共に、ヌシの巨体がボロボロと崩れ去っていく。
泥が光の粒子となって天に昇り、その中から、取り込まれていた作業員たちが、糸が切れた人形のように地面に崩れ落ちた。
全員、気絶しているが無事なようだ。
「……ふぅ」
俺は、ジンジンと熱を持つ右拳を握りしめた。
江戸の拳と、令和の技術。
とんでもねぇハイブリッド除霊が、完了した瞬間だった。




