6-3:異変(いへん)と“匂(にお)い”
そんな二重生活にも慣れてきた、12月頭。
浅草の、とある一角で、奇妙な噂が流れ始めた。
場所は、玄夜神社があった場所とは別の、古い問屋街。
革靴や鞄の職人が多く住む、下町情緒の残るエリアだ。
そこでも、老朽化に伴う大規模な再開発工事が進んでいたのだが……。
『呪われた再開発? 工事現場で連続失踪事件』
ネットのオカルト板やSNSで、そんな見出しが躍った。
最初は、現場に住み着いていたホームレスが、一夜にして姿を消した。
次に、夜間警備のバイトが、巡回中に忽然といなくなった。残されていたのは、懐中電灯だけ。
そしてついに、ベテランの現場監督までもが、「神隠し」に遭ったという。
「愁さん、これを見てください」
いつもの実家のイートインスペース。
閉店後の薄暗い店内で、詩織がタブレットの地図アプリを広げた。
問屋街の工事エリアが、赤くマーキングされている。
「現場の“気”が、異常に乱れています。……これは、ただの人の恨みではありません」
詩織の表情は、いつになく険しい。
(玄さん、どう思う?)
俺が問いかけると、脳内の同居人は、低く唸った。
『うむ……。この匂いは、知っておる』
いつもの軽口がない。
玄の記憶が、遠い過去――江戸の闇を探っているようだ。
『ワシら(鬼神)が喰らうような、人の血生臭さとは違う。もっと土臭く、湿った……そう、“土地”そのものの、古い怒りの匂いだ』
土地の怒り。
俺の背筋に、嫌な汗が伝った。
それは、人間相手の“仕事”とは次元の違う、厄介なナニカの予感だった。




