6-2:二足(にそく)のわらじ
俺の「表」の仕事は、想像以上にハードだった。
サイバー・ガーディアンが契約している大企業への攻撃を、リアルタイムで監視・分析し、防御する。
秒単位で流れる膨大なログの海を泳ぐような作業だ。
「……よし、撃退」
キーボードを叩く指を止め、フゥーッと息を吐く。
隣の席では、ケビンが怪しげな呪文(本人曰く、効率化のマントラらしい)を唱えながら、俺の倍のスピードでコードを書いている。
「慣れてきたようだな、浅河くん」
いつの間にか、背後に霧島が立っていた。
こいつ、気配がなさすぎる。もしかして同業者(暗殺者)か?
「一応、釘を刺しておくがね」
霧島は、俺の耳元で囁いた。
「君の“副業”――例の『鬼神』の件は黙認する。だが、ウチの機材や情報を私的に使うなよ。あくまで、君の個人の範囲でやれ」
「……はい」
「あと、残業と“副業”が被ったら、ウチを優先しろ。給料分は働いてもらうからな」
ブラックなことをサラリと言い残し、霧島は自分のデスクに戻っていった。
『ケッ、サラリーマン稼業か。馬鹿馬鹿しい』
脳内で、玄が悪態をつく。
『そんなことより小僧、昨夜の“恨み(うらみ)”はどうなった?』
(分かってるよ。今、昼休みだから……)
俺は、会社のPCから目を離し、自分のスマホを取り出す。
詩織から、メッセージが届いていた。
『ターゲットの特定、完了しました。秋葉原を拠点にする、悪質な転売ヤーのグループです。買い占めで、子供たちのクリスマスプレゼントを奪った罪、重いです』
(よし、定時ダッシュで仕置きだな)
『おうよ! 久々(ひさびさ)に暴れさせろ!』
表では、国を守るホワイトハッカー。
裏では、庶民の恨みを晴らす仕事人。
俺の、目の回るような二重生活が始まった。




