第6章:二重生活(ダブルワーク)と浅草(あさくさ)の“ヌシ” 6-1:初出社(はつしゅっしゃ)と“裏”部署(うらぶしょ)
翌週。
2025年、11月も終わろうとしている、肌寒い朝だった。
俺は、いつものパーカーにジーンズという、およそ社会人らしからぬ格好で、新宿の高層オフィスビルを見上げていた。
「……でけぇ」
朝日を反射して輝くガラス張りの巨塔。
そのエントランスを、パリッとしたスーツを着たビジネスマンたちが、忙しなく出入りしている。
場違い感が半端ない。
俺の就職先、「株式会社サイバー・ガーディアン」。
国内最大手のITセキュリティ企業だ。
本来なら、俺みたいなのがコネなしで入れるような場所じゃねぇ。
「……よし」
覚悟を決めて、自動ドアをくぐる。
受付の綺麗なお姉さんに、霧島から渡された仮IDカードを見せると、彼女は一瞬だけ怪訝な顔をして、すぐに営業用の笑顔に戻った。
「浅河愁様ですね。……配属先は、地下3階になります」
「地下……ですか?」
「はい。エレベーターで、直接どうぞ」
地下3階。
案内板には「サーバー室/機械室」としか書かれていない。
エレベーターを降りると、そこは地上の華やかさとは無縁の、無機質なコンクリートの廊下だった。
空調の低い唸り音だけが響いている。
廊下の一番奥。
「関係者以外立入禁止」の札がかかった、重厚な鉄扉の前で、俺は足を止めた。
表札には、「旧資料保管庫」とある。
(……ここか?)
IDカードをリーダーにかざすと、ガコン、と重い電子ロックが外れる音がした。
恐る恐る中に入ると、そこはカオスだった。
部屋の半分は、最新鋭のサーバーラックが並び、無数のLEDが点滅している。
だが、もう半分は、まるで別世界だ。
怪しげな魔方陣のようなポスターが貼られたデスク。
その横には、なぜか本格的な筋トレ用ベンチプレスと、サンドバッグが吊されている。
カップ麺の空き容器が山積みになったテーブル。
「ようこそ、浅河くん」
部屋の奥、一番上等な革張りのチェアに座っていた霧島が、ニヤリと笑って手を広げた。
「ここが君の職場。通称『特殊事案対応室』だ」
霧島は、部屋にいた二人の先客を紹介した。
「こっちが、ケビン・ミラー。元・某国の諜報機関でホワイトハッカーをしていたが、オカルトにハマりすぎてクビになった天才だ」
「……Hi。Newbie(新入り)。君の背中、面白いオーラが見えるネ」
金髪で、死人みたいに肌が白い痩せ男が、モニターから目も離さずに片手を上げた。
(……オーラって、玄のことか!?)
「で、あっちで筋肉をイジメてるのが、剛田猛。元・自衛隊の特殊作戦群だ。物理セキュリティ担当」
「……ウス」
丸太みてぇな腕をした大男が、黙々(もくもく)と100キロはありそうなバーベルを上げ下ろししている。
目が合っただけで、俺の本能が「勝てねぇ」と叫んだ。
「ま、見ての通り、社会不適合者の集まりさ」
霧島は楽しそうに言った。
「表に出せない“特殊”なトラブルを処理するのが、我々(われわれ)の仕事だ。……君には、ピッタリだろ?」
(……とんでもねぇ所に来ちまった)




