1-2:神社の“跡地”
結局、夕飯もろくに喉を通らず、俺はあてもなく夜の浅草をフラついていた。
就活全滅。おまけに思い出の場所まで破壊される。
令和の世は、俺に優しくねぇ。
ザァァ……。
冷たい秋の夜風が、パーカーのフードをすり抜けていく。
いつの間にか、足はあの場所に向かっていた。
(あ……)
玄夜神社の、跡地。
昼間テレビで見た光景が、目の前に広がっている。
「……ひっでぇな」
鳥居も社も、何もかもが無くなっていた。
あるのは、無機質な重機と、工事用の資材だけ。
真新しいフェンスが、立ち入り禁止だと主張するように俺の行く手を阻んでいる。
時刻は、スマホの表示で『00:00』。
深夜0時。日付が変わった瞬間だ。
こんな更地になっても、ここが「神社だった場所」であることは変わらない。
ガキの頃、悪いことをして神様に謝った記憶が蘇る。
(……一応、拝んどくか)
何に、とは分からない。
失われた思い出にか、あるいは、俺の終わってる就活にか。
なんとなく、そうしたかった。
フェンスの前で、俺は静かに目を閉じ、手を合わせようとした。
その、瞬間だった。
ピカッ――!
「うおっ!?」
目の前が、真っ暗な光に包まれた。
いや、光が暗いってなんだ。
例えるなら、闇が凝縮して一瞬だけ輝いた、みたいな。
「な、なんだよ……!?」
光の発生源は、フェンスの内側。
更地のド真ん中。
あの日、俺たちの秘密基地だった――神木の切り株。
あのデカい木の、地面に残された根っこの部分が、まるでコールタールみたいな黒い光を放っている。
ゴゴゴゴゴ……!
地面が揺れてる?
いや、違う。空気が、ビリビリと震えてるんだ。
(やべぇ、なんかヤベェぞ!)
俺の本能が、全力で「逃げろ」と叫んでる。
だが、足がすくんで動かない。
見ていることしかできない俺の前で、その黒い光は、ゆっくりと人型を形作っていった。




