5-7:令和の“仕事人”、就職
X社のオフィスは、高層ビルのワンフロアだった。
もちろん、厳重なセキュリティが敷かれている。
「愁さん、ここの認証は……」
「いらねぇよ、そんなもん」
俺は、ビルの管理システムに、詩織のタブレット経由でハッキングする。
(霧島さん、あんたの技術、見様見真似で使わせてもらうぜ!)
ガコン。
全てのセキュリティドアが、一斉に開いた。
「な、なんだ!?」
慌てて飛び出してきた警備員たち。
だが、そいつらは、俺の隣をすり抜けた“何か”に、一瞬で沈められた。
『――遅ぇ』
俺の体を、玄が完璧に操る。
懐の「黒蓮華」が、警備員たちの急所(もちろん殺さない)を正確に打ち抜き、神経を麻痺させる。
「(玄さん、奥のサーバルームだ!)」
『承知!』
サーバルームで、亜美は震えていた。
「あ……あさか、わ、くん……?」
「高円寺さん、もう大丈夫だ」
俺は、亜美を庇うように立つと、X社のメインサーバーに、詩織から受け取ったUSBメモリを突き刺した。
「(……悪いな、X社。あんたらの悪事の証拠、全部もらうぜ)」
そして、エンターキーを、叩いた。
送信先は、全てのマスコミ。
――そして、オマケに「株式会社サイバー・ガーディアン」の霧島さん宛てにも、送っておいた。
事件は、あっけなく終わった。
X社は、翌日には強制捜査を受け、幹部は全員逮捕された。
後日。
亜美は、俺に改めて感謝しに来てくれた。
「……でも、浅河くん、なんだか、もう私の知らない世界に行ってしまったみたい」
そう言って、彼女は少し寂そうに笑い、距離を置いた。
(……まぁ、これでいいか)
その夜。詩織のアパートで、俺はいつものように緑茶を啜っていた。
「……よかったのですか、内定」
詩織が、ポツリと聞いてきた。
「いいんだよ」
俺は、湯呑を置いて笑った。
「俺、やっと“就職先”、決めたから」
“恨み(うらみ)”を晴らす、この“仕事”だ。
その時だった。
ブブブ、と俺のスマホが鳴った。
ディスプレイには、「霧島」の二文字。
(うわ、マジか。怒ってるかな……)
恐る恐る、電話に出る。
「……もしもし、浅河です」「――最高だ、浅河くん」
霧島の、興奮したような声が、耳に飛び込んできた。
「君が送ってくれた証拠! アレ(あれ)のおかげで、X社の背後にいたデカいのも、まとめて叩けた!」
「は、はぁ……」
「……ああ、そうだ。ウチの会社、“裏”の部署に、ちょうど欠員が出た」
「……え?」
「明日から来い。あ、スーツは着てこなくていいぞ」
電話は、一方的に切れた。
俺は、スマホを持ったまま、呆然とする。
(表のITセキュリティ会社と、裏の“仕事人”。愁の二重生活が、今、始まる――)




