5-3:密会と“表”のスカウト
翌日。
俺のスマホに、非通知設定の着信があった。
『……浅河愁さん、ですね』
変声機を通したような、機械的な声。
『昨日のお話、少し伺えませんか。X社の件です』
「……!」
心臓が、跳ね上がった。
バレた!
『場所は、新宿のホテル〇〇、ラウンジです。敵意はありません』
切れた通話に、冷たい汗が流れる。
『どうする、小僧。罠だぞ』
(行くしかねぇだろ。俺がやったことは、どう見ても犯罪だ)
詩織には「大学の用事」と嘘をつき、俺は一人、浅草を離れ、新宿の高級ホテルに向かった。
指定されたラウンジの席には、鋭い目つきの男が、一人座っていた。
仕立ての良いジャケット。年は30代前半。
「浅河愁さん、ですね」
男は、俺の履歴書データをタブレットに映しながら、笑った。
(なんで、俺の履歴書を!?)
「昨日、X社で見事な“挨拶”をしてくれたね」
血の気が引いた。終わった。
こいつはX社の人間か、あるいは警察か。
「通報はしない」
男は、俺の絶望を見透かすように言った。
「むしろ、その腕を買いたい」
男は、スッと名刺を差し出した。
『株式会社サイバー・ガーディアン 執行役員 霧島』
「サイバー・ガーディアン……? あの、国内最大手の……!」
就活生なら、誰もが知ってる超優良ITセキュリティ企業だ。
もちろん、俺もエントリーして、即お祈りされた。
「――浅河愁くん、君、ウチで働かないか?」
「え……?」
「X社は、ウチもマークしていた悪質な企業でね。だが、尻尾が掴めなかった。君のおかげで、ようやく証拠が手に入ったよ」
霧島は、ニヤリと笑う。
それは、就活全滅だった俺にとって、初めての。
そして、最高の「内定」だった。




