4-2:決戦
「――来たな、ガイアフロントの犬どもが」
詩織のアパートに集まった俺たちの前に、情報屋・矢切景が飛び込んできた。
「ヤベェぜ、愁クン! “掃除屋”の連中、今夜、あんたの実家に火ィつける気だ!」
「……!」
「待ってください」
詩織が、タブレットを操作しながら冷静に言った。
「敵の本隊は、別の場所にいます。……ここです」
地図アプリが示したのは、あの、玄夜神社があった場所。
今、ガイアfロンと社が建設中の、タワーマンションの現場だった。
「今夜、あのマンションの最上階で、社長の黒崎がパーティーを開く、と」
詩織がタブレットの情報を読み上げる。
「ああ。ヤツら、まだ建設中だっつーのに、最上階だけ先に内装を終わらせて、祝賀パーティーを開く魂胆らしいぜ」
矢切が、歯ぎしりしながら情報を補足する。
「地上げ成功の、お祝いってワケだ。クソが。」
「実家への放火は、陽動か」
俺は、冷静に状況を分析する。
俺たちを実家におびき出し、その隙に黒幕の黒崎は高みの見物ってワケだ。
「……詩織、矢切さん。頼みがある」
俺は、二人に作戦を告げた。
詩織は、こくりと頷く。
「……分かりました。ハッキングの準備をします」
「ハッ、面白ぇ!」
矢切も、ニヤリと笑う。
「任せとけ。俺の“ダチ”も総動員だ。火事なんざ、絶対に起こさせねぇよ!」
『行くぞ、小僧』
玄の声が、俺を急かす。
「ああ。ケリをつけようぜ、玄さん」
建設中のタワーマンション。
かつて、俺たちの秘密基地だった神社の跡地。
そこが、最後の決戦の場だ。
最上階、ペントハウス。
工事中とは思えないほど、煌びやかな照明が灯り、黒崎たち幹部がシャンパンを傾けていた。
「ハハハ。あの古臭い神社も、こうすりゃ金の卵だ」
「これで、浅草の景観も良くなりますな、社長」
黒崎が、夜景に向かってグラスを掲げた、その時。
ガシャアアアアン!!
ペントハウスの巨大な窓ガラスが、外から叩き割られた。
「な、なんだ!?」
「敵襲だ!」
護衛(用心棒)たちが、慌てて黒崎の前に立つ。
割れた窓から、静かに侵入してくる人影。
それは、ゴンドラのワイヤーに「分銅」を巻きつけ、ターザンのように飛び込んできた、俺だった。
「……こんばんは、黒崎社長」
俺は、フードの奥から、冷たい視線を向ける。
「てめぇらの“闇”、俺が晴らしに来たぜ」
「ガキが……! この前の残党か! やれ!」
護衛たちが、一斉に襲いかかってくる。
だが、今の俺は、蔵前の時とは違う。
「――遅い」
俺は、俺自身の意志で、玄の力を引き出す。
懐から「黒蓮華」を抜き、突っ込んでくる男の急所に、スタンガンのように叩き込む。
ドンッ!
「がふっ!?」
「その動きは、知ってるぜ」
二人目のタックルを、紙一重でかわす。
そのまま、腕を捻り上げ、関節を極める。
『フフ。小僧、テメェ、俺の“手”を盗みやがったな』
「(あんたこそ、俺の“目”に慣れてきたろ!)」
俺の現代的な思考(分析)と、玄の江戸の体術が、今、完全に同調している。
雑魚どもは、数分も持たなかった。
「ひ……ひぃ!」
残るは、黒崎ただ一人。
ヤツは、デスクの引き出しから、拳銃(!?)を取り出した。
「こ、こっちに来るな! 死にてぇのか!」
「……」
『どうする、小僧。ありゃ“鉄砲”だぞ』
「(関係ねぇ)」
俺は、ゆっくりと黒崎に近づいていく。
パンッ!
乾いた発砲音。
だが、弾丸は俺の頬を掠めただけ。
俺は、弾道を「読んで」いた。
「な……なぜ、当たらん!?」
「あんたの“殺意”が、見え見えだからだよ」
俺は、黒崎の目の前に立つ。
銃口が、俺の額に突き付けられる。
「……終わりだ、ガキ」
黒崎が、勝ち誇ったように引き金に指をかけた。
「ああ。終わりだ」
俺は、スマホを取り出した。
そして、送信ボタンを、タップした。
「――お前の、人生がな」
「なに……?」
その瞬間。
黒崎の背後にあった、パーティー用の巨大モニター全てが点灯した。
そこに映し出されたのは。
『こ、この裏金リストは!?』
『社長! 株価操作のデータが、全部……!』
『まずい! この音声、地上げの……!』
黒崎の、悪事の全てだった。
「な、なぜだ! なぜ、そのデータが!?」
「詩織が、あんたのサーバーをハッキングした。俺のドローンが、そのパスワードを盗み見た」
俺は、冷たく言い放つ。
「そして、そのデータは今、ネット(ニュースサイト)に、一斉送信された」
俺は、黒崎の持っていた拳銃を、手刀で叩き落とす。
「……殺しは、しない。だが、あんたは社会的に死んだ」
ガチャン、と拳銃が床に落ちる。
黒崎は、モニターに映し出された自らの罪状と、鳴り止まないスマホ(部下からの着信)に囲まれ、その場に崩れ落ちた。
「あ……ああ……」
「……一つ、晴らさせてもらった」
玄の決めゼリフを、今夜は俺が呟いた。




