23-2:特定(サーチ)と一刀
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数字は止まらない。
画面を埋め尽くすコメントは、もはや罵倒ではない。
『行けぇ!』『負けんな!』『浅草のヒーローじゃん!』という、熱狂的な応援だ。
『ガ……ア……ァ……』
目の前の「炎上の化け物」が、苦しげに身をよじる。
燃料である「悪意」が「称賛」に上書きされ、その巨体は見る影もなく縮んでいた。
黒い泥がボロボロと剥がれ落ち、ただの小さなシミになろうとしている。
「効いてるぞ、愁さん!」
詩織が叫ぶ。
「今です! 敵の呪力が弱まった今なら、“本体”の隠蔽も解けているはず!」
「亜美! 頼む!」
俺(愁)は、カメラの向こうではなく、店の軒先に避難させていた亜美に向かって叫んだ。
亜美は、ノイズキャンセリング・ヘッドホンを耳に当てたまま、じっと目を閉じていた。
(……聞こえる)
亜美の世界から、数万人の雑音は消え失せていた。
代わりに聞こえるのは、温かい応援の声と……
たった一つ、この期に及んでもなお、粘着質で、嘲笑うような、不快な「操作音」。
(あっち……!)
亜美がカッと目を見開く。
彼女は立ち上がり、震える指先で、雷門の前に集まった「野次馬(人混み)」の一角を指差した。
「……そこ!!」
亜美の声が、夜の浅草に響き渡る。
「あそこ! ……一番前の、灰色のパーカーの男!」
「あのスマホから……“黒い音”が出てる!!」
俺(玄)の視線が、亜美の指差す先を射抜く。
そこには、スマホを構えてニヤニヤと笑っている、猫背の男がいた。
一見すれば、ただの動画撮影をしている野次馬だ。
だが。
(……見えたぜ)
玄さんの眼光が、男のスマホから伸びる、細い「黒い糸」を捉えた。
その糸は、苦しむ化け物に繋がっている。
(テメェか……! 安全圏から高みの見物とは、いい御身分だなぁ!)
「玄さん! 行くぞ!」
俺(玄)は、目の前の化け物を無視した。
標的変更。
狙うは、操り人形じゃない。人形使い(マリオネッター)だ!
ドンッ!!
俺(玄)は、地面を蹴り、野次馬の群れに向かって猛ダッシュした。
木刀を振りかぶり、殺気満々で突っ込んでいく。
『えっ?』
『そっちは一般人だろ?』
『やめろ! 放送事故になるぞ!』
『暴走した!?』
コメント欄がパニックになる。
何も知らない視聴者から見れば、興奮した配信者が、無関係な観客に襲いかかろうとしているようにしか見えない。
だが、俺は止まらない。
灰色のパーカーの男――「虚」が、迫りくる俺に気づき、ギョッとして顔を上げた。
「なっ……!?」
その顔は、先ほどテレビジャックで見せた「ノイズの仮面」ではない。
どこにでもいそうな、平凡で、意地の悪そうな男の顔だった。
「見つけたぞ、卑怯者ォォォッ!!」
俺(玄)は、男の目の前で跳躍した。
「ヒッ、ヒイイッ!?」
男が悲鳴を上げ、スマホを掲げて身を守ろうとする。
それが、命取りだ。
「その“指先”が、テメェの本体かよォッ!!」
ズバァァァッ!!
蒼い閃光一閃。
俺(玄)の木刀は、男の身体には指一本触れず。
男が握りしめていた「スマートフォン」だけを、真っ二つに叩き斬った。
バチバチバチッ!!
斬られたスマホから、黒い瘴気が悲鳴のように噴き出た。




