22-3:雷門決戦(ライブスタート)
深夜2時。
草木も眠る丑三つ時だが、今の浅草に静寂はない。
雷門の大提灯から噴き出す黒い瘴気が、夜空を不気味に焦がしている。
その提灯の下。
俺――浅河愁は、たった一人で仁王立ちしていた。
『……愚かな』
どこからともなく、不快なノイズ混じりの声が響いた。
虚だ。
姿は見えない。だが、その声は空間全体から響いてくる。
『ノコノコと顔を出すとはねぇ。……自分から“誹謗中傷の的”になりに来たのかい?』
俺のスマホが震える。
位置情報が特定されたのか、SNSには『犯人発見』『雷門にいるぞ』『凸れ』という書き込みが溢れかえっていた。
「へっ。コソコソ隠れてねえで出てきたらどうだ?」
『お前ごとき、私が手を下すまでもない』
ズズズズ……!
虚の嘲笑と共に、雷門の影から「それ」は現れた。
アスファルトから湧き出した黒い泥。
いや、それは泥じゃない。
無数の「文字」だ。
『死ね』『消えろ』『犯罪者』『嘘つき』『ゴミ』
ネットに書き込まれた罵詈雑言が、ヘドロのように固まり、巨大な人型を形成していく。
身長3メートルを超える、悪意の集合体。
「炎上の化け物」だ。
『見ろ。これが世間の声だ。……潰されろ、社会のゴミめ』
化け物が、ドロドロの腕を振り上げる。
物理的な質量と、精神汚染の呪いを兼ね備えた一撃。
まともに食らえば、肉体も心もミンチになる。
だが。
俺は、逃げなかった。
「……潰されるのは、どっちかな」
俺は背負っていたバッグから、あるモノを取り出した。
武器じゃない。
「三脚」だ。
『……は?』
虚が、呆気にとられたような声を上げる。
俺は三脚を地面にガシリと立て、そこに自分のスマートフォンをセットした。
カメラのレンズを、目の前の化け物と、自分自身に向ける。
そして、動画配信アプリを起動。
タイトル欄に、迷わずこう打ち込んだ。
『【浅草】深夜の雷門で“お祓い”してみた【鬼神】』
『な、何を……!? 遺言でも残す気か!?』
「いいや。……これから始まるのは、処刑じゃない」
俺は、画面上の赤い「配信開始」ボタンを、親指で強く押し込んだ。
《ON AIR》
瞬間、接続者数が回り始める。
『うわ、本当にいた』『反省なしかよ』『炎上商法乙』
罵倒のコメントが弾幕のように流れる。
だが、俺は不敵に笑い、カメラのレンズ越しに、世界中の「野次馬」たちを睨み据えた。
「――よぉ、浅草の皆。そして画面の前の皆」
俺の腹の底から、玄さんの覇気が溢れ出す。
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 今宵、浅草・雷門にて行われまするは、前代未聞の大立ち回り!」
俺は、腰に佩いた霊刀を抜き放ち、見得を切った。
「嘘か誠か、その目で確かめな! ……本当の“祭り”を見せてやるよ!」




