第22章:鬼神、バズる ~逆転のライブ配信作戦~ 22-1:逆転の発想
夜の帳が下りた『浅河』の店内。
外からは、相変わらずイライラした通行人の怒鳴り声や、パトカーのサイレンが断続的に聞こえてくる。
雷門の「杭」が放つ瘴気は、夜になってさらに濃くなり、浅草全体を不機嫌な空気で覆い尽くしていた。
「……どうすればいい」
俺は、カウンターに突っ伏して頭を抱えた。
霧島さんの言葉が、重くのしかかる。
『法では止められない。お前たちが“空気(世論)”を変えるしかない』
「空気なんて、どうやって変えるんだよ……」
俺はスマホの画面を睨んだ。
SNSのトレンドは依然として『#浅草_地獄』『#浅河_倒産しろ』といったネガティブなワードで埋め尽くされている。
何万、何十万という人間が、俺たちを、そして浅草を「悪」だと信じ込んでいる。
一人一人に「それはデマです」とリプライを送るか?
無理だ。そんなことをすれば、さらに「必死だなw」と煽られて炎上するだけだ。
「……詰みかよ」
絶望的な沈黙が流れた、その時だった。
(――テヤンデェ!!)
脳内で、鼓膜が破れそうなほどの怒声が響いた。
「うおっ!? げ、玄さん?」
(湿っぽい顔してんじゃねえ、小僧! 見てるこっちまで気が滅入らァ!)
玄さんは、俺の情けない態度に腹を立てていた。
だが、その声には、諦めではなく、不敵な響きがあった。
(霧島の野郎が言った通りだ。……要は、悪口言ってる外野どもを、黙らせりゃいいんだろ?)
「黙らせるって……どうやって? 相手は姿の見えない数万人だぞ。殴ることも、説得することもできない」
(馬鹿野郎。江戸の喧嘩ってのはな、“派手にやったもん勝ち”なんだよ)
「派手に……?」
(そうだ。祭りの喧嘩も、歌舞伎の見得も同じだ。ちまちま理屈をこねるんじゃねえ。……一番デカい声で、一番すげえモンを見せた奴が、その場の“空気”を全部持っていくんだ)
玄さんの言葉に、俺はハッとした。
江戸っ子の美学。
それは、「正しさ」よりも「粋」や「面白さ」で大衆を味方につけること。
群衆心理を操る、原始的だが最強の方法。
(今の時代にもあんだろ? ……『見世物小屋』ってのがよ)
「見世物小屋……?」
(ああ。ガラスの板の向こうで、芸を見せて銭を稼ぐ、あのカラクリだ)
「……動画配信、のことか?」
俺の脳裏に、電撃が走った。
そうだ。
敵(虚)の武器は「注目(アクセス数)」だ。
奴は、人々の「悪意」や「恐怖」という感情を集めて、それを呪力に変換している。
だったら。
俺たちが、その「注目」を横取りしてしまえばいい。
「悪口」よりももっと強力な、「驚き」や「称賛」というエネルギーで、ネットの空気を上書きしてしまえばいいんだ!
「……そうだ。ライブ配信だ」
俺はガバッと顔を上げた。
目の前に座っていた詩織が、驚いて俺を見る。
「愁さん? 急にどうしたんですか?」
「詩織ちゃん。……俺たちの戦いを、世界中に見せるぞ」
「は、はい!? 何を言ってるんですか!?」
詩織が目を丸くする。当然だ。
俺たちは「裏の仕事人」だ。正体がバレれば社会的に抹殺されるリスクがある。
だが、今はもう社会的に殺されかけている。
これ以上、失うものなんてない。
「敵はネットを使ってデマを流してる。……なら、こっちはネットを使って“真実”を見せるんだ」
俺は、スマホのカメラアプリを起動し、自分の顔を映した。
「ただの弁解動画じゃない。……そんなの誰も見ない」
「見せるのは、圧倒的な“エンターテインメント”だ」
俺は、自分の胸――その奥にいる相棒に語りかけた。
「玄さん。……あんたの“殺陣”、久しぶりに人前で披露したくねえか?」
(……ほう?)
玄さんが、ニヤリと笑った気配がした。
(ワシの剣技を、見世物にするってか? ……悪くねえ)
「現代人は、CGだの特撮だのに目が肥えてる。……だが、本物の“鬼神”の動きを見たことはない」
俺は確信を持って言った。
「あんたが暴れれば、絶対に“バズる”。……悪口を言ってる奴ら全員の目を、釘付けにできる!」
(カカッ! 面白え! ……令和の民草どもに、江戸の“華”ってヤツを教えてやろうじゃねえか!)
作戦は決まった。
俺は詩織の肩を掴んだ。
「詩織ちゃん、カメラマンを頼めるか? ……世界一派手な“除霊ライブ”、開演だ!」
俺たちは、機材(スマホと自撮り棒)を手に、夜の雷門へと駆け出した。
「炎上」には「炎上」を。
ただし、俺たちが起こすのは、悪意の火事じゃない。
見る者すべての魂を熱くする、起死回生の「大花火」だ!




