第19章:地上げ返し(ブレイク・グラウンド) ~宣戦布告返し~ 19-1:重機 vs 鬼神
夜の帳が下りた工事現場。
無機質な投光器の明かりに照らされ、その「鉄の化け物」は待っていた。
改造ショベルカーの運転席で、風水建築士の男がニヤリと笑う。
「ハハッ! 懲りずにまた来やがったか、貧乏神どもめ」
男がレバーを倒すと、ショベルカーのアームが威嚇するように唸りを上げた。
先端についた巨大な杭が、夜気を切り裂く。
「学習能力がねえなァ! お前らの店はもう半壊だ。今度は完全に更地にしてやるよ!」
ブオオオオッ!!
エンジン音と共に、周囲の空気が歪む。
昼間、俺たちを切り刻んだ「鎌鼬」――地脈を悪用した真空の刃が、再び俺たちの周囲に発生した。
「愁さん、来ます!」
「ああ、分かってる!」
俺は詩織の前に立ち、蒼い霊力を身に纏う。
だが、今度は「逃げる」ためじゃない。「攻める」ためだ。
「風水術と重機の波状攻撃……。まともにやり合えば、分が悪い」
男は、重機の装甲に強力な「防御結界」を張りつつ、遠距離から鎌鼬を飛ばしてくる。
近づけばアームで叩き潰され、離れれば切り刻まれる。
まさに鉄壁の要塞だ。
――だが、それは「燃料」が尽きるまでの話だ。
(詩織ちゃん。……頼んだぞ)
(はい。……亜美ちゃんがくれた“目”、無駄にはしません!)
詩織が、懐から一枚の御札を取り出した。
それは、通常の祓い串ではない。
先端に重りのついた、投擲用の特殊な呪符だ。
「オラオラァ! 死ねェ!」
ヒュンッ! ヒュパッ!
真空の刃が俺の頬をかすめる。
俺はそれを紙一重でかわしながら、大袈裟に右へと走った。
「こっちだ、三下!」
「チョロい動きだぜ!」
男の注意が、囮である俺に引きつけられる。
重機の運転席が旋回し、俺を追う。
その瞬間。
男の意識の外(アウト・オブ・眼中にない)場所にいた詩織が、動いた。
「そこっ!!」
彼女が狙ったのは、重機でも、運転席の男でもない。
フェンスの奥。資材置き場の影。
亜美が「嫌な音がする」と指差した、あの一点!
シュッ!
詩織の手から放たれた呪符が、一直線に闇を切り裂く。
そして、何もないはずの地面に吸い込まれ――
ズドンッ!!
まるで重い蓋をしたような、重低音が地下から響いた。
「あ?」
運転席の男が、間の抜けた声を上げた。
ヒュ……ン……。
俺を襲っていた真空の刃が、突如として霧散する。
それだけじゃない。
重機の周囲を覆っていた、あの強固な「防御結界」の光が、フツッと消滅したのだ。
「なっ!? ば、馬鹿な……!」
男が慌てて羅盤を確認する。
針は死んだように動かない。
「地脈からの供給が……止まっただと!? まさか、力の供給源がバレた!?」
男は戦慄の表情で、詩織の方を見た。
あんな、目立たない場所に隠した古井戸(増幅器)を、なぜ一発で見抜けた!?
「残念だったな、工事屋さん」
俺は足を止め、ニヤリと笑った。
俺たちには、最強の「耳」を持つナビゲーターがいるんだよ。
「燃料切れだ。……ここからは、生身の時間だぜ!」
(――行くぞ、小僧!)
脳内で、待ちわびていた鬼神が咆哮する。
(おう!!)
俺(愁)の意識が後退し、俺(玄)が前面に出る。
全身の筋肉が軋むほどに、霊力が爆発する。
ドンッ!!
俺(玄)は、地面を爆発させる勢いで踏み切った。
目指すは、結界が消えて無防備になった、あの運転席!
「ひっ、来るなァ!」
男がパニックになりながら、アームを振り回す。
巨大な鉄の杭が、俺(玄)を叩き潰そうと迫る。
だが、遅い。
「甘ぇんだよ!!」
ガシィッ!
俺(玄)は、振り下ろされたアームを避けるどころか、その側面を蹴りつけた。
そして、慣性の法則を無視するような身のこなしで、動くアームの上に着地した。
「なっ……!?」
男が目を見開く。
重機のアームを、まるで坂道のように駆け上がってくる俺(玄)の姿が、運転席のガラス越しに迫る。
「重機の使い方がなってねえなァ! ワシが“解体”してやらァ!」
蒼い炎を纏った右拳を振りかぶり、俺(玄)は運転席へと肉薄した。
さあ、年貢の納め時だ!




