表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/168

18-3:反撃の狼煙


亜美を店内の安全な場所へ避難させ、俺と詩織は再び、夜の裏路地に立った。


目の前には、不気味に静まり返る工事現場。


そして、亜美が指し示した「力の源(古井戸)」がある資材置き場の影。


勝機はある。


だが、隣に立つ詩織の体は、まだ微かに震えていた。


無理もない。一度植え付けられた「母親を殺される」という恐怖は、そう簡単に拭えるものじゃない。


「……」


俺は足を止め、詩織に向き直った。


そして、彼女の震える両肩を、強い力でガシッと掴んだ。


「詩織ちゃん」


「っ……愁、さん……」


彼女がビクリと顔を上げる。


その瞳は不安に揺れていた。まだ、あの麗華の冷たい声が耳に残っているのだろう。


「大丈夫だ。……お母さんは、霧島さんが守ってくれてる」


俺は、彼女の瞳を真っ直ぐに見据えて言った。


「あの人は冷徹な悪魔めがねだけど、仕事は完璧だ。奴らはもう、絶対に手出しできない」


「……はい」


「だから」


俺は言葉に力を込めた。


「今だけは、忘れろ。……人質のことも、家の借金のことも、全部」


「今だけは……目の前にいる、俺たちの家を壊した、あのクソ建築士を叩くことだけに集中してくれ!」


俺の言葉が、彼女の心に染み込んでいくのが分かった。


俺たちの店――『浅河』の無残な姿。


破壊された壁。ひび割れた窓。


それは、彼女の実家(神社)が奪われた時と同じ、理不尽な暴力の跡だ。


「……」


詩織の視線が、俺の肩――先ほど鎌鼬かまいたちで切られた傷跡に向けられた。


そして、自分のために傷ついた俺の店へと移る。


彼女の瞳から、怯えの色が消えていく。


代わりに宿ったのは、静かで、しかし熱い「怒り」の炎だった。


「……そう、ですね」


詩織は、目元に浮かんでいた涙を、袖口で乱暴に拭った。


「私の家(神社)だけでなく……あなたの大切なお店まで壊されて」


「私がここで膝を抱えていたら……女が廃りますね」


彼女が顔を上げる。


そこにはもう、震える少女はいなかった。


悪霊を祓い、理不尽を許さない、誇り高き「巫女」の顔があった。


「分かりました。……迷いは捨てます」


詩織の手が、懐から数枚の御札を取り出す。


その指先に、迷いなき霊力が青白く灯った。


「行きましょう、愁さん。……あの不法侵入者たちに、きついお灸を据えてやります!」


「おう! その意気だ!」


(ケッ。……いい面構えになりやがった)


脳内で玄さんもニヤリと笑う。


盾(霧島)も、矛(亜美)も、そして戦士(詩織)の心も揃った。


反撃の準備は完了だ。


俺たちはフェンスを蹴り破り、敵が待つ「風水の結界」へと、真正面から躍り込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ