18-3:反撃の狼煙
亜美を店内の安全な場所へ避難させ、俺と詩織は再び、夜の裏路地に立った。
目の前には、不気味に静まり返る工事現場。
そして、亜美が指し示した「力の源(古井戸)」がある資材置き場の影。
勝機はある。
だが、隣に立つ詩織の体は、まだ微かに震えていた。
無理もない。一度植え付けられた「母親を殺される」という恐怖は、そう簡単に拭えるものじゃない。
「……」
俺は足を止め、詩織に向き直った。
そして、彼女の震える両肩を、強い力でガシッと掴んだ。
「詩織ちゃん」
「っ……愁、さん……」
彼女がビクリと顔を上げる。
その瞳は不安に揺れていた。まだ、あの麗華の冷たい声が耳に残っているのだろう。
「大丈夫だ。……お母さんは、霧島さんが守ってくれてる」
俺は、彼女の瞳を真っ直ぐに見据えて言った。
「あの人は冷徹な悪魔だけど、仕事は完璧だ。奴らはもう、絶対に手出しできない」
「……はい」
「だから」
俺は言葉に力を込めた。
「今だけは、忘れろ。……人質のことも、家の借金のことも、全部」
「今だけは……目の前にいる、俺たちの家を壊した、あのクソ建築士を叩くことだけに集中してくれ!」
俺の言葉が、彼女の心に染み込んでいくのが分かった。
俺たちの店――『浅河』の無残な姿。
破壊された壁。ひび割れた窓。
それは、彼女の実家(神社)が奪われた時と同じ、理不尽な暴力の跡だ。
「……」
詩織の視線が、俺の肩――先ほど鎌鼬で切られた傷跡に向けられた。
そして、自分のために傷ついた俺の店へと移る。
彼女の瞳から、怯えの色が消えていく。
代わりに宿ったのは、静かで、しかし熱い「怒り」の炎だった。
「……そう、ですね」
詩織は、目元に浮かんでいた涙を、袖口で乱暴に拭った。
「私の家(神社)だけでなく……あなたの大切なお店まで壊されて」
「私がここで膝を抱えていたら……女が廃りますね」
彼女が顔を上げる。
そこにはもう、震える少女はいなかった。
悪霊を祓い、理不尽を許さない、誇り高き「巫女」の顔があった。
「分かりました。……迷いは捨てます」
詩織の手が、懐から数枚の御札を取り出す。
その指先に、迷いなき霊力が青白く灯った。
「行きましょう、愁さん。……あの不法侵入者たちに、きついお灸を据えてやります!」
「おう! その意気だ!」
(ケッ。……いい面構えになりやがった)
脳内で玄さんもニヤリと笑う。
盾(霧島)も、矛(亜美)も、そして戦士(詩織)の心も揃った。
反撃の準備は完了だ。
俺たちはフェンスを蹴り破り、敵が待つ「風水の結界」へと、真正面から躍り込んだ。




