校正者のざれごとーー活字中毒とPV依存症
私は、フリーランスの校正者をしている。
ここで何度も書いているように、私は仕事以外ではあまり本を読まない。そして、以前別の校正者に本を読むか聞いたところ、「別腹」との返事があり、ちょっと落ち込んだ。でも私は、まだ諦めきれずにいた。きっと、本を読まない校正者は私だけじゃない。
校正プロダクションの事務所で片づけものをしながら(校正ゲラやら伝票やら献本やら、社内はカオスと化していた)、ある女性の校正者に聞いてみた。
「この仕事してると、プライベートで本を読むことってあんまり……」
すると彼女はちょっと恥ずかしそうに言った。
「私ね、活字中毒なんですよ」
バッグの中にはいつも本を入れている。読み終わってしまって次に読む本がなくなるのが不安で、常に2冊は入れているという。
「でもね、最近は電子でも読めるから助かってます。本って重いので」
本以外に電子書籍も持ち歩いているらしい。つまり読書は欠かさない。そうか、これが本物の校正者なのか。それにしても、「活字中毒」とは。なんというパワーワード。
でも、私だって活字が嫌いなわけじゃない。こうして文章を書くのも好きだし、それを読んでくれる人がいれば嬉しい。新しく文章を投稿したあとは、気になって何度も反響を確かめてしまう。この行為がやめられなくなったら、それはPV依存症といったところだろうか。SNSで「いいね!」を求めて過激な内容の投稿を繰り返してしまうような。誰だって、人から注目されたいという欲求くらい持っているはずだ。まあ、今の私はまだ客観的に自分を見る余裕があるのでかろうじてセーフ、なのか。
中毒と依存症の違い。たとえば薬物でいえば、中毒は体の中に薬物が回って異常をきたしている状態で、抜ければ元に戻る。依存症は体内から薬物が消えても欲求が抑えられず症状が続く。ん? ということは、彼女の場合は「活字依存症」というべきか。いや、校正者は体から活字が抜けることはないので「中毒」のままでいいのか。ちなみに「依存」には「いそん」「いぞん」の二つの読みがあり、本来は「いそん」であったが、今はどちらも正しいとされる。NHKでは2014年から「いぞん」の読みを優先させているそうだ。
懲りずにもうひとりの校正者にも聞いてみた。通勤で本を読むという。「でも、電車が混んでたら読めないですよね」すると彼は笑顔で答えた。
「いや、少し手前の駅まで戻って、そこから座ってくるんです。そうすればゆっくり本が読めますから」こっちも本物だ。なんか悲しい。夏バテ気味なので、今回はこの辺で。