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第二話 天使

(ついに……会える!)


一体、どんな子なんだろう。泣き虫か、やんちゃか、おっとりか——だが、いずれにせよ、愛らしいことに疑いはないだろう。


息せき切って、部屋に駆け込むと、殿下は少しばかり微妙な顔をした。


「ああ、きたか、ブノワ」


ソレイユ王国第一王子・シャルル殿下と私・公爵令息のブノワは当時十歳。将来の側近候補として、幼い頃からまるで兄弟か友人のごとく、ご一緒に遊ばせていただいていた。


殿下は聡明なだけでなく、快活で気さくなお人柄。目下の私にも偉ぶることなく、対等かのように接してくださっていた。


「そのように焦らなくとも、妹は逃げぬぞ」


しかし、その時の私にはシャルル殿下の言葉は、ほとんど耳に入ってこなかった。


まもなく訪れる初対面の予感に、胸を躍らせていたからだ。


「こちらが……オクタヴィア殿下なのですね」

私は、乳母が抱く稚児を起こさないよう、静かに近づいた。


* * *


五ヶ月前、王国中にめでたい知らせが届いた。国王夫妻の第二子である、姫君が誕生されたのだ。


その知らせを聞いてから、ずっと会えるのを楽しみにしていた。


私は、母が夭折したこともあり一人っ子だ。父は後継問題の勃発を恐れ、再婚しないまま私を育ててくれた。そのこと自体には深く感謝している。


だが、本当は……私は弟か妹が欲しかったのだ!


親戚の幼子たちは皆とても愛らしく、頼られると誇らしい気持ちになった。いつか兄になりたい——そんな思いを、ずっと心に秘めていた。


(シャルル殿下の妹君なら、私にとっても妹のような存在と言えるのではないか?)


さすがにそんな不遜なことを口にはできなかった。だが、私は姫様にお会いできる日を今か今かと心待ちにしていたのだった。


そして。


そこにいたのは——天使だった。


雪のように白い肌に、薔薇のような頬。銀の巻き毛が寝息と共に揺れている。殿下と……色合い自体は似ているが、なんというか、まるで違う。


(あまりにも小さくて、柔らかで、触れたら壊れてしまいそうだ)


そう思いながら眺めていると、突然ぱちりと目が開いた。こぼれ落ちそうなほど大きな瞳は、まるで空のような、澄んだ色をしている。


泣きもせず、じっとこちらを見つめた彼女は、そっと私の方へ手を伸ばした。


「だぁ〜」


そして、なんと——私の指をその小さな手で掴んだのだ!


少し湿った、小さくてぷにぷにとした指で。


……どれくらい、時が経っただろうか。


「……ブノワ!おい、ブノワ、どうしたんだ!?」

肩を掴み、揺さぶってくる王太子殿下の声を聞いて、私は我に帰った。


「す、すいません。あまりにも尊くて……」


「は!?お前、泣いているのか?」


……殿下はものすごく驚き、そして呆れたような顔をした。


「いえ、姫様がお嫁に行かれるときのことを思うと、つい……」


「お前は父親か!?」


もはや、兄を通り越して父の気分だった。……まずい、不敬罪で捕まるかもしれない。


「……シャルル殿下、私は、必ず姫様をお守りします。この命に代えても」 


(そうだ、この娘を全ての苦難から、守らなければ——)


「……いや、お前文官志望だっただろう?なぜ護衛のようなことを言う」


殿下が何か言っている気はしたが、この時の私にはどうだってよかった。彼女のことで、頭がいっぱいだったのだ。

だがその誓いは、わずかな間しか守ることができなかった。思いのほか早く、私は彼女を守る任から下ることになった。



《全12話予約済》毎日19:10更新/8月16日完結予定


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