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第十二話 婚姻

すべてを知ったブノワは、その真相に驚愕することに——

『結婚できないのは、私のせいですか』

いよいよ、最終話です。

婚約期間は、驚くほど短かった。姫様の婚約解消の直後であることに加え、念入りに準備されるはずの王族の結婚とは思えないほどだった。


ウエディングドレスを着た姫様はあまりにも眩しかった。幾重にもひだが寄せられ、宝石が縫い込まれたドレスは、彼女に見事に似合っていた。まるで、時間をかけて準備されたかのように。


……その美しさは息を呑むほどだった。


だが私は、罪悪感を打ち消すことができなかった。私が、姫様からエティエンヌを奪ったのではないかと、そう思ってしまったのだ。たとえ、手を引いたのが陛下だとしても……。


* * *


結婚式の夜、私は寝室で姫様とソファに座り、ワインを嗜んでいた。


「……姫様」


「もう、姫ではありません。あなたの妻なのですから『オクタヴィア』とお呼びください」


その言葉に、エティエンヌと彼女が、愛称で呼び合っていたことを思い出した。何だか、胸が痛んだ。


「……オクタヴィア。あなたに今日、手を出すつもりはありません」


彼女は、眉をひそめて私を見つめた。

「……なぜ?貴族の義務を果たすつもりがないと?」


「いえ、いずれは義務を果たさねばと思っております。ただ……あれだけ、エティエンヌと仲睦まじかったのです。それを引き離され、十も年上の私と結婚など……あなたがお可哀想で」


だが、うつむく私を見て、彼女は笑い出した。


「仲睦まじかった?……あんなの、演技に決まっているでしょう。私たちの結びつきを示すのに、必要だっただけのこと。お互いに、百パーセント、打算しかなかったわ。……もし彼が、本当に私のことを愛していたなら、心が動いたかもしれないけれど」


……まるで、いつもの彼女じゃないみたいだった。


「だから、ブノワ。心配する必要はないわ。……貴族として、きちんと義務を果たしましょう」


* * *


翌朝は、小鳥の鳴き声で目が覚めた。横では、オクタヴィアがまだ寝息を立てていた。


だが、もつれた髪を手で撫でつけ、ガウンの前を合わせてベッドを下りようとすると、横から腕を掴まれた。


「ブノワ、おはよう」


寝ていたはずの彼女が、その水色の目をぱっちりと開けていた。


「姫……オクタヴィア、体は大丈夫ですか?」


「この通り、とっても元気よ」

オクタヴィアは、体にシーツを巻き付けると、満面の笑みで微笑んだ。


「だって、ようやくあなたと……結婚できたんだもの」


(え……?)


オクタヴィアが、何を言っているのか分からなかった。


その大きな目が、優しく細められた。


「……ごめんなさい。お兄様は悪くないの。私が頼んだのよ。あなたと“どうしても結婚したい”って。何度も、何度もね。とうとう最後は、あなたの秘書官まで巻き込んじゃったわ」


オクタヴィアは真剣な顔で私を見つめる。


「だから、これは“王家の陰謀”じゃない。私の陰謀なの」


「は!?な、なぜそんなことを……」


舌がもつれて、言葉にならなかった。


「私、子供の頃からずーっと、あなたのことが好き。欲と打算にまみれたこの世界の中で、こんなにもまっすぐに私を愛してくれたのは、あなただけだった」


彼女はまっすぐな目で私を見つめた。私は、まるで魅入られたかのように、微動だにすることができなかった。


「……オクタヴィア」


「女として見られてないことくらいわかっていたわ。でも、どうしても諦められなかったの」


彼女は、ベッドの上で私ににじり寄った。


「……だから、確かめたかったのだけど。昨日の様子じゃ、私を女として愛することもできそうね?」


「なっ……」


(……なんてことを言い出すんだ!)


昨夜の美しい彼女の姿が、ふいに脳裏に浮かぶ。——やめろ、私は何を考えているんだ。


顔が、真っ赤になるのを止められなかった。


「だからね、覚悟してくださいませ?旦那様。私に愛を教えてくださったあなたに、今度は私が——一生かけて、愛を教えて差し上げますわ」


彼女の顔が近づいてくる。


(……ああ、もう、どうにでもなれ)


私は、彼女を抱き寄せ、その唇に……そっと、小さな口付けをした。


彼女は、私の背中に手を回し、耳元で囁いた。


「ふふ、あなたにまた『抱っこ』してもらえるなんて。私、こうするのが一番幸せだったの。ブノワ、大好きよ」


記憶の中の幼い少女がふわりと笑い、腕の中の美しい女性と重なる。


今度こそ——彼女を守ると誓おう。私の、生涯をかけて。


* * *


それから二年後に、長女が生まれ、さらにまた二年後に今度は長男を授かった。


彼女の“陰謀”から始まった私たちの結婚は——思いがけない幸せに満ちた日々となった。娘と息子を溺愛しすぎて、いつもオクタヴィアに笑われた。


——あの時はまだ、知る由もなかったのだ。


私たちの娘がやがて、この国に激震を呼び込むことになろうとは。




最後までお読みいただきありがとうございました。

もし、楽しんでいただけていましたら、感想や評価でも教えていただけると嬉しいです!


――――


ブノワとオクタヴィアの娘のお話は、近日中に連載開始予定です。翻弄されていたブノワも父となり、老獪な政治家として活躍します。オクタヴィア、シャルル、エレオノールも登場。ぜひこちらも応援よろしくお願いします。


▼どんでん返し系・異世界譚

「ソレイユ王国シリーズ」

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もしご興味がありましたら、他の作品もぜひ覗いてみてください。

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