第十一話 陰謀
それから程なくして、王宮から手紙が届いた。そこには二つの報告が書かれていた。
まずは、エティエンヌと姫様の婚約が解消されたという報せ。もちろん、それだけでも十分に驚いた。
——だが、さらに信じがたいことが書かれていた。
(私と、姫様の婚約が整った、だと!?)
私は、取るものもとりあえず、王宮まで馬車を急がせた。
* * *
急遽の謁見を依頼し、案内された部屋には、シャルル陛下、エレオノール殿下、そして姫様が揃って待ち構えていた。
……三人とも、まるで最初から私を問い詰めるつもりだったかのような、妙な緊張感が漂っていた。
一瞬、その雰囲気に気圧されたが、はっきりさせておかねばならない。
「……陛下、あの手紙は一体どういうことですか?エティエンヌと姫様は……あんなに仲が良かったのに。それを引き裂いて、まさか私と婚約だなどと……」
姫様の方を見ることはできなかった。きっと、傷ついているだろう。
陛下は、先日とは打って変わって、満面の笑みを浮かべていた。だが、何か含みを感じるのは気のせいか。
「……元々、政略結婚だ。あの頃は貴族派との結びつきを深める必要があったが、今は状況が変わった。お前と結びつく方が都合がよいのだ」
(……王族の宿命とは言え、まるで姫様を道具のように使うなどと……)
私が顔をひきつらせたのに気づいたのか、陛下は私と姫様を交互に見比べた。
「……当然、反対などしないだろう?お前、オクタヴィアを守りたいと言っていたじゃないか。今、正式にその任を与えよう。悩んでいた結婚もできるし、一石二鳥だな?ブノワ」
陛下の言葉は筋が通っているようでいて、どこか無理やり納得させようとする圧を感じた。
「……まさか、私の婚約を妨害していたのが、陛下だったと?」
「……すまないな。エティエンヌを説得し終わるまで、そなたに打診できなかった。だが彼も、次期宮内卿の座を約束すると言ったら、喜んで承諾してくれたぞ。……まあ、お前への悪ふざけまでは止められなかったが」
(……そう言うことか)
あまりにもくだらない結末に、全身の力が抜けた。あれほど気を揉んでいたのは何だったんだ。
だが、これだけは確認しておかねばならない。
「……姫様は、それでよろしいのですか?」
私は、意を決して姫様の顔を見た。その表情は、思いの外キッパリとしていて……まるで、迷いを断ち切ろうとしているようだった。
「……ブノワは、私では不満なの?」
彼女の声は特別大きくはなかったが……その静かな声が、不思議と部屋の隅々にまで染み渡るように感じた。
「い、いえ!不満だなどと……滅相もございません。臣下の身ですから、王命に従うまでです」
「……そうよね。私もよ。王族に生まれた者としての義務がある。だから……何の問題もないわ」
まるで、事務的な命令文を読むかのように、姫様は淡々とそう言った。
こうして、陛下の思惑をもとに、姫様と私は結婚することになった。
……私に、エティエンヌを押しのけてまで結婚するほどの価値があるとは、到底思えなかった。しかし、陛下に問いただしても、煙に巻かれてしまった。
(まさか、私が結婚できないのが王家の陰謀だったとはな……)
エレオノール殿下は、最後まで一言も発しなかった。ただその眉間に、きつい皺が刻まれていたのが、なぜか頭から離れなかった。
……まるで、すべての真相を知っていながら、あえて語ろうとしないかのようだった。
その沈黙の奥にあるものが、何よりも恐ろしく思えた。
《全12話予約済》毎日19:10更新/8月16日完結予定
婚活の失敗は、王家の陰謀!?ブノワは、この結末を本当に受け入れてよかったのでしょうか。それとも——。
次回、最終話で全てが明らかに。
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