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第十話 運命

「……エティエンヌのことは気にするな。放っておけばいい」


意を決して陛下に相談したというのに、返ってきたのはあまりにも素っ気ない一言だった。私は思わず、唖然とする。


(いやいや……私の人生がかかってるんだぞ?)


「……陛下、真面目に聞いてください!」


思わず詰め寄るが、陛下は表情のない顔でこちらを見つめるばかりだった。


今日はエレオノール殿下は同席していないようだ。先日、何を言いかけたのか聞きたかったのだが……。


「陛下。しかし、このままでは私は結婚できません。ロシュフォールの血が途絶えてしまいます」


「……まあ、心配するな。なんとかなるだろ」


「……いや、それではまるで他人事ではありませんか!」


あまりにも、言い分が適当すぎる。私の知る限り、陛下はこんな方ではなかった。いったい、どうしてしまったのだろう。


「エティエンヌが何かしているのは間違いないのです。なのに、なぜ取り合っていただけないのですか!」


私の切実な訴えに、陛下はほんの少し眉をひそめ……仕方がないとでも言うようにぼそっと呟いた。


「……あいつは何もしていない。ただ、性格が悪いだけだ。昔はあんな男じゃなかったのに」


やけに、確信を持った言い方だった。


何かの理由でエティエンヌをかばっているのか、それとも……。


「調べもせずに断言なさるのですね。……陛下は何をご存知なのですか?」


「今は……知る必要はない。いずれわかることだ」


(いったい、何の話だ?)


昨日から、エティエンヌにも陛下にもはぐらかされ続け、私は流石に苛々していた。


陛下は、私の味方ではなかったのか。エティエンヌの味方なのか。……いや。どちらがどうのという問題ではない。陛下は——正しい者の味方をしてくださると、勝手に思い込んでいた。


私は、意図を探ろうと陛下の顔をしげしげと眺めた。だが、そこには、迷いも、わだかまりも、何もないように見えた。


私は、もう一度だけ、と心に決め口を開いた。


「陛下は……正しい者の味方ではないのですか?」


陛下は、少しだけ口元を緩めた。


「私は……お前の味方だよ。ただし、お前”だけ”の味方でいるわけにはいかない」


陛下の言葉が意味するところは、やっぱり私には掴みきれなかった。


* * *


「公爵様。おかえりなさいませ」


屋敷に着いた途端、ドッと疲れが押し寄せてきた。玄関先に立つ私に、クレマンスがすぐに駆け寄ってくる。


「クレマンス。ダメだったよ……陛下は、お力になってくださらなかった。徒労に終わってしまう可能性もあるが、改めて見合いの手配をお願いできるか?」


「……」


その顔に浮かんでいたのは……落胆ではなく、緊張のように見えた。


「どうした?クレマンス」


彼女は肩をビクッと振るわせ、私と目を合わせようとはしなかった。


「……申し訳ありません!私には……もう、公爵様の見合いの手配はできません!」

突然叫ぶようにそう言うと、クレマンスは逃げるようにその場を走り去ってしまった。


彼女がいなくなった後の廊下が、やけに広く感じた。


一体何が起きているのか、まるで分からない。


味方だと思っていた者たちが、一人ずつ離れていく。なのに、誰もが理由を告げようとしない。


(私は——何に巻き込まれているんだ?)


それが“誰かの意志”なのか、“運命”なのかさえ、私にはまだ掴めていなかった。



《全12話予約済》毎日19:10更新/8月16日完結予定


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