008 ファーストコンタクト、ファーストバトル
目指す宙域へ向かう航路の途中、艦船は滑らかに虚空を進んでいた。
ブリッジにはクラフトと、船に新たに搭載されたAIが控えている。だが、まだそのAIには呼び名がなかった。
「目的地までの正確な時間は?」 《現在の推進速度であと89時間12分36秒。》
無味乾燥な声。だが、反応は早く精度も高い。
「なあ、お前にも名前をつけないとやりにくい」
《命名は自由です》
「じゃあ……“ナビ”と呼ばせてもらうか」
《承知しました。以後、自機AIは『ナビ』と呼称されます》
「ネメシスの後継としてよろしく頼むよ、ナビ」
《キャプテン・クラフトの意向を理解し、機能を最適化します》
《慣例にならい、個体名クラフト、呼称キャプテンクラフトを記録しますがよろしいですか?》
「キャプテンクラフトか、いいね。気に入った」
やっと呼吸が合ってきた気がした。クラフトは操縦席に体を沈め、両手でゆっくり操縦桿を握る。
《キャプテン、設定されている航路はメタ王国への座標から若干ずれています。修正が必要ですか?》
「いや、そのままでいい」
《理由を伺っても?》
「メタに直行しても、上陸のためにはクレジットを求められるだろうと思ってな。クレジットを持ってないこの船じゃ、着艦さえ断られる可能性がある」
クラフトの視線は、広がる星海の先を見据えるようだった。
「この星域、30年前はかなり物騒な場所だったはずだ。今も変わってないとしたら――」
《なるほど。釣りをするわけですね》
「そういうこと」
《レーダー監視を強化。反応があれば即時報告します》
言ったその直後、警報がブリッジ内に響いた。
《急接近する機影を確認。数は5。分析パターン赤。敵性機体の可能性が高いです》
「来たか……了解」
クラフトの顔には、不謹慎にも笑みがこぼれていた。
「まずはこちらに攻撃の意思がないことを示す、メッセージは“敵対の意思はない、接近の意図を開示せよ”だ。全チャンネル、全言語でだ」
《送信完了。入電あり。“停止せよ。従わない場合は攻撃する、従えば身の安全は保障する”とのことです》
直後、船体の外殻にかすかな震動。ブラスターの照射が、シルバーナの外郭をなぞるようにかすめた。
「釣れたな……海賊船だ」
クラフトは姿勢を正し、指示をだす。
「セーフティー解除。戦闘モードへ移行!」
《了解。セーフティー解除。戦闘モードへ移行。防御シールド展開》
青白い防御シールドが即座に展開される。前方の2門のブラスター、両舷の近距離パルスレーザーが即座に起動する。
操縦桿を握りしめ、クラフトは右足と左足のスラスター制御ペダルを細かく調整。シルバーナが宇宙を切り裂くように旋回した。
「まずは正面の一体を潰す。ロックオン、砲撃」
ブラスターが轟音と共に火を吹く。青白いエネルギー弾が一直線に飛び、敵機を直撃。火花を散らして爆散。何か、想像したよりブラスターの威力が強い。こんな仕様だっけと思いつつ・・・
多対一の戦いでは、先手を打つことが重要だ。
《敵機、残り4》
敵はセオリー通りに散会し、複数の方向からシルバーナをとり囲むように攻撃を加えてくる。
「想定内、想定内ww」
さんざんシミュレーションでやった状況だ
シルバーナの機動性を生かして一気に加速し、艦首を急反転させた、ジャックナイフターンと呼ばれる技術だ。
ターンすると、後を追ってきた4機すべてが照準の中に納まる状況になった
「フルファイア」
小さくつぶやくながら、ブラスターとパルスレーザーの一斉斉射により4機は藻屑となった。
《敵機、全機撃破を確認。戦闘終了》
「ナビ、索敵範囲に敵影は?」
《現在、全方向クリア。360度の監視を継続中》
「よし。回収用ドローンを出してくれ。めぼしいものはないか見てくれ。特にストレージ類だ。」
《了解。回収用ドローン射出。通信リンク確立。接続中……》
クラフトはシートから立ち上がり、ブリッジ正面のホログラフ投影に目をやった。宇宙に漂う残骸の一部が、ゆっくりとドローンに牽引されていく。
「欲しいのはストレージだ。情報とクレジット……」
《回収完了。解析中……クレジット情報を検出。合計:300万クレジット》
「上出来だ。これでメタに着艦できる、はず、たぶん」
クラフトの口元は思わず緩んでいた。
《キャプテン、実に見事な結果です。海賊行為を誘導し、返り討ちにする。まさに鬼畜の所業です》
苦笑
「ナビ、物言いまで、先代を倣わなくてもいいよ。進路を再設定。目標はメタ。最短コースで構わない」
《了解。航路修正、完了。出発しますか?》
「行こう。そろそろ、次の出会いに向けてな」
それにしても、ブラスターの威力が気になるクラフトであった。