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誰もいない宇宙船で目覚めたら最強だった件について  作者: Sora
七章 未踏宇宙域編

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89/90

088_30万年前のメッセージ1/2

プロメテウスは静かに航行していた。

目的地はエリジオン社の拠点がある惑星ノアリス。

請け負った仕事の報告とプロメテウスの修理が目的だった。

その途中、博士はクラフトからプロメテウスの全データへの完全アクセス権限を与えられていた。

「これからの調査と開発に必要になる。全部見て使える情報を把握してくれ。昔とナビが古巣から持ち出したデータの解析も頼む」

シルバーナでは演算能力が足りず未解読のままだったネメシスの資料も、プロメテウスなら解析可能と判断したのだ。

博士はその依頼を受けてラボへ向かった。

そして出てこなくなった。


■ ラボに籠もる

博士はラボで複数のモニタを立ち上げ、沈黙の中で作業を始めた。

解析対象は膨大だ。

・シルバーナの航路

・船体構造と改修ログ

・戦闘記録

・遭難船の調査データ

・暗号化されたネメシス関連データ

プロメテウスの構造は手馴れたものだ。博士にとって難しい相手ではない。

だがシルバーナのデータに触れた瞬間、博士の表情が変わった。

「……ほう。これは……」

モニタに映る情報を舐めるように見つめ、乾いた笑いを漏らす。

「面白い。面白いですねぇ……シルバーナ進宙以前の航海記録が膨大にありますよ。ざっと三十万年分。数百を超える遭難船の回収記録。そして暗号化された大量の正体不明のデータ。ひひ……これは初めてですよ」

光る画面の前で、博士はまるで宝の山を前にした少年のように笑っていた。


■ 1日経過 ― 生存確認の必要性なし

一日が過ぎた。

博士はラボから出てこない。

カイがクラフトに尋ねる。

「博士、食事をしてないみたいですね。呼んできますか?」

クラフトは椅子にもたれたまま、苦笑した。

「集中してるんだろ。研究者って人種は夢中になると三日は平気で引きこもるさ。放っておけ」

ナビまで、

「博士なら大丈夫ですよ。生体反応も正常です」

と淡々としている。


■ 2日経過 ― クレアの不安

さらに一日が経過し、48時間が経った。

クレアがクラフトに声をかける。

「さすがに丸二日となると気になりますね。キャプテン、様子を見に行きますか?」

クラフトは肩をすくめて笑った。

「まぁ、本人が平気ならそれでいいさ」

「……理解不能です」

クレアの瞳がわずかに曇った。

それでもクラフトは気にしていない様子だった。


■ 3日後 ― 博士、瘦せた姿で帰還する

そして三日目。

ブリッジの扉が開き、博士が姿を見せた。

やややつれた顔、寝不足の目。

だが、その瞳は異様な光を帯びていた。

クレアが真っ先に声をかける。

「博士、そろそろ生存確認に向かうところでした」

「それは失礼しました。つい、夢中になりましてね」

クラフトが笑う。

「何か面白いものは見つかったか?」

博士は待ってましたと言わんばかりに頷いた。

「ええ、それはもう幾つも。未踏領域のさらに先の星系図、とうに滅びた文明の記録、未知のAIアーキテクチャ……ですが、私が最も惹かれたのは別のものです」

「ほう? 何だ?」

博士は端末を操作し、ブリッジのメインモニタへと接続した。


■ 《過去の人類からの遺産》

表示されたのは、古い形式のパスワード入力画面。

そして上部にひとつのメッセージ。


《これは過去の人類からの遺産である。我々が未来の子孫に望むことをパスワードとして設定した。答えよ》


クラフトが眉を上げる。

「これはまた……ずいぶんと大仰だな」

博士は椅子に腰を下ろし、説明を続けた。

「シルバーナのストレージはには三十万年前からのデータが残っていました。それ以前のものは空白。おそらく初期化か、意図的な削除。しかし」

そこで指を一本立てる。

「これはその三十万年分とは別に、何重もの暗号プログラムによって保護されていたのです。表層のアクセス制限を解除するだけで三日かかりました」

カイが不思議そうに尋ねる。

「博士、暗号化といっても昔のものなら簡単に解読できるんじゃ……?」

博士は首を横に振った。

「残念ながら不可能でした。この船の全処理能力を使っても、“解読にどのくらいかかるかすら算出できない”。全く、信じられないですよ。こんなのは初めてです」

クラフトの表情が引き締まる。

「……で、本題は?」

博士はモニタの隅を指した。

“データ更新者”という項目が点滅している。

「これです。キャプテンの見解を聞きたい」

表示されたのは30万年前の更新者情報

データ更新者:Craft.Yamamoto

ブリッジが静まり返る。

クレアとカイが同時にクラフトを見る。

クラフトは、静かに笑った。

「そうか、そう来るか」

クラフトはまるで、自分だけが答えを知っていたかのように。

そして、どこか愉しげだった。





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