087_宇宙葬
プロメテウスの艦橋は、静寂に包まれていた。
クラフトは依頼元の鉱山会社と通信を続けている。
淡いノイズを挟みながら、簡潔に事の顛末を報告した。
「貨物船は無傷だ。乗組員は全員死亡。積荷は破棄が妥当だ」
〈了解した。航路に存在した小惑星型兵器は?〉
「すべて一掃済みだ。採掘元で同様の事象がないことは確認した。」
〈ああ、作業はすべてドローンによる無人化で、人が鉱石に触れることはないのが幸いしたのだろう。〉
「安全確保のため、こちらで作業員を連れ帰ることも可能だが?」
〈礼を言う。ただ、現地には貨物船の他に護衛付きで船を配置してあるから、即時退避を開始させている。君らはそのまま帰還してくれて構わない。〉
通信の向こうで、相手が言い淀む。
〈貨物船のクルーについてだが、定期航路が開かれる前のため、慣例に従い全員、家族のいない者たちとなっている。航海中の死亡時の取り扱いについて希望をとってある。宇宙葬を望む者ばかりだ〉
クラフトは短く
「わかった」とだけ言い、通信を切った。
無言で医療班にリストを転送する。
医療室では三名のスタッフがそのリストを見つめていた。
「皮肉ね。助けるのが仕事なのに、医療チームの最初の仕事が葬儀の準備とは」
だが誰も笑わなかった。
貨物船から運ばれた亡骸は洗浄され、ひとつずつ棺に収められていく。
ぼやきながらも、動作は丁寧で迷いがなかった。
この時代でも、辺境では命が軽く消えることを、彼女たちは知っていた。
そして何度も経験しているのだろう。
格納庫
25の棺が整然と並び、ハッチの向こうには、無数の星々が瞬いている。
薄く展開された電磁シールドの向こうで、宇宙は音もなく広がっていた。
医療主任のミナがクラフトに歩み寄る。
「艦長。慣例に従い、葬送の言葉をお願いします」 クラフトは黙って頷き、前へ出た。
星明かりの中で、彼の声だけが静かに響いた。
我ら、沈黙の海を渡るものなり。
去りてなお、時の彼方に息づく。
故に呼べ、遥かなる者なりと。
古くから宇宙船乗りに伝わる弔いの詩。
棺は一つ、また一つと重力制御を解かれ、ゆっくりと浮かび上がる。
電磁シールドが開かれ、無音の闇へと流れ出ていった。
我ら、迷うことはあれど、恐れることを知らず。
傷をおうことあれど、歩みを止めることなし。
形は移れど、想いは朽ちず
ただ、流れの中に還るのみ
悲しき世界に影を見る者よ
沈黙の言葉を聞く者よ
我ら、汝の中にあり
汝、我らの中にあり
クラフトは黙したまま、最後の棺が星明かりに溶けるのを見届けた。
そこに祈りの言葉も、涙もなかった。
ただ静かに、恒星の風が流れていった。




