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誰もいない宇宙船で目覚めたら最強だった件について  作者: Sora
七章 未踏宇宙域編

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082_博士の分析結果とAIコアの回収

プロメテウスの研究ラボは、淡い青光に包まれていた。

中央のホログラフ台では、ドローンから送られてきたデータが立体投影されている。

解析を指揮しているのは、惑星観測ラボから派遣された科学主任アディス・ローク博士。

指が宙をなぞるたびに、遺体スキャン画像や分子構成データが切り替わっていく。

「やはり奇妙だな。」

低く唸るような声。

博士は片手に持った電子ペンで、宙に浮かぶ人体スキャンの一部を拡大した。

胸骨、肋骨、腕骨、どれも粉砕されている。だが、焼け跡はない。

ブラスターではない。高熱も、爆圧も存在しない。

「ナビ、ブリッジに繋いでくれ。」

通信回線が開くと、ホログラム越しにクラフトの姿が浮かぶ。

椅子に深く座り、無表情にデータを見つめていた。

「どうだ、博士。原因は掴めたか?」

「結果から言うと、ブラスターやプラズマ兵器の使用痕は皆無です。遺体には刺創、打撲痕、粉砕骨折。原始的な近接武器による損傷が確認されました。ナイフ、鈍器、あるいは素手でも説明できますが誰ががやったかは不明です。」

ブリッジに沈黙が落ちた。

やがてクラフトが短く息を吐く。

「死亡理由は分かったが犯人は不明、手がかりなしということであっているか?」

博士は頷く。

「船内に生命反応は検知されていない。」

「カイ、外部侵入の記録、洗ってみてくれ。」

「了解です。」カイは操作盤を叩きながら答える。

「ログを見る限り、航行中にハッチが開いた記録は皆無ですね。格納庫も密閉状態のままです。」

「そうか。」クラフトは顎に手を当て、低く呟く。「ならば、脅威は内部にいた。しかも、今も残っているかもしれないと考えるのが妥当か。」

ブリッジの空気がわずかに重くなる。


「博士、他に異常値はないか?」

「ドローンが取得したデータはすべて分析済みです。空気成分、電磁波、微粒子、放射線量。いずれも正常値。感染性ウイルスも検出されない。機関系のAIが破壊されている点を除けば、船内環境は“通常の貨物船”そのものです。」

クラフトの眉がわずかに動く。「異常がない、了解だ」

クラフトは静かに立ち上がると、通信を切った。

「結局、AIのコアを解析するしかないな。カイ、ドローンで回収できるか?」

「無理です。」

カイは首を横に振る。「AIコアの抜き出しには生体認証が必要です。メーカーの解除キーは受け取ってますが、人間が直接操作しないと外れません。」

「そうか。」

クラフトは短く息を吐くと、クレアに視線を送った。

「最小人数で行く。俺とクレアでAIコアを回収する。戦闘装備を整えておけ。」

「了解しました、キャプテン。」

クレアは即座に立ち上がり、ブリッジを後にする。


貨物船は、黒い虚空の中に浮かんでいた。

プロメテウスとの間を、チューブ状の接続通路が伸びている。

エアロックが開き、クラフトとクレアが無言で進む。

透明ヘルム越しに互いの呼吸音だけが響く。

「外壁シール良好、気圧差なし。」ナビの通信が入る。「内部気温は摂氏22度、酸素濃度正常。」

「了解。突入する。」

クラフトはブラスターを構え、貨物船のハッチを手動で開いた。

内部は非常灯の赤が細い線を描いている。

ドローンが先行し、薄い光を撒きながら通路を進む。

居住ブロック。床には黒く乾いた血痕。壁面には削られたような跡。

誰かが暴れた形跡、しかし、銃痕は一つもない。


「異様ですね。」クレアの声が通信越しに響く。

「襲われた形跡があるのに、銃を使った痕跡がありません。」

「武器を奪われたか、使う暇もなかったか。」

クラフトは淡々と答える。

二人はドローンの先導で、階層を上がりブリッジへ向かう。

沈黙の中、機械音だけが虚空を打つ。

やがてブリッジに着くと入り口は開いたままだった。

貨物船のブリッジは、まるで時間が止まったように静まり返っている。

操舵席には、パイロットが座ったまま胸を刺されて死亡していた。

AIユニットが保存されている場所にも大きな損傷がある。

「損傷がひどいな。」クラフトはしゃがみ込み、球状のAIコアを慎重に外す。

「データの復旧は微妙だが、試すしかない。」

「了解。回収ケースを展開します。」

クレアが透明のケースを開き、コアを収納する。

クラフトは最後に周囲を見回し、何かを感じ取るように振り返った。

「行こう。」


帰還ルート、貨物区画。

薄暗い通路を、二人の足音が反響する。

壁際には銀灰色の鉱石コンテナがいくつも積まれていた。

クレアがちらりと視線を送る。「積み荷も無事のようですね。」

「そうだな。貨物狙いの海賊でもなさそうだ。」クラフトは軽く頷く。

「帰ってから考えよう。」

「カイ、ドローンでクルーの遺体をプロメテウスへ移送してくれ。そのままにしておくものでもないからな」

「了解です」

2人は両船を繋ぐチューブを通って戻っていく


――――


貨物船の格納庫、静寂の中でわずかな音がしたが二人は気づかない

ガリ……ガリ……。

鉱石コンテナの一つが微かに揺れる。

灰色の鉱物結晶の隙間から、細い裂け目が開いた。

そして、内部の“鉱石”が、ゆっくりと目を開けた。

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