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誰もいない宇宙船で目覚めたら最強だった件について  作者: Sora
七章 未踏宇宙域編

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081_不明船の謎

プロメテウスの作戦室には、静かな緊張が漂っていた。

天井のライトパネルが青白い光を落とし、楕円形のホロテーブルには行方不明となっている貨物船の航行データが立体投影されている。

周囲を囲むように、クルーたちが席に着いていた。


クラフトはテーブルの端に立ち、ゆっくりと視線を巡らせた。

「全員、集まったな。これより作戦ブリーフィングを開始する」

落ち着いた声が室内に響く。


「改めて紹介しよう。私はクラフト。このプロメテウスの艦長を務める」

隣で控える二人を示し、続ける。

「航法と戦術管制を担当するクレア。そして、整備・技術全般を担当するカイだ」


クレアは静かに一礼し、端末を操作して艦の航路データを表示させた。

カイは緊張した面持ちで手を上げた。「よろしくお願いします!」

少し力の入った声に、場の空気がわずかに和らぐ。


「では次に、今回同行してもらう専門スタッフを紹介してもらおう」

クラフトの促しに、白衣姿の女性が立ち上がった。

「医療区画主任のミナ・コールです。乗員の健康管理と救助対象者の治療を担当します」

落ち着いた声だったが、その眼差しには使命感が宿っていた。


続いて、銀縁の眼鏡をかけた青年が口を開く。

「惑星観測チームから派遣された科学担当、アディス・ロークです。捜索対象が遭難した原因を調査し、環境・物理的要因の分析を行います」


最後に、鋭い眼をした男が短く名乗った。

「護衛チームリーダーのゲイル・サンダーだ。戦闘が発生した場合の指揮を執る。パイロット5名は私が普段から付き合いのあるフリーの傭兵だ。指揮系統は私が保証する。」


クラフトは一同を見渡し、軽く頷いた。

「よし。ではミッションの概要を説明する」


ホロテーブル上に、銀河地図と航路ラインが浮かび上がった。

「行方不明となった貨物船は〈イプシロン9〉。最終通信記録が、ここ、セクターΘ-09の外縁で途絶している。我々はこの航路を逆方向からたどり、異常が発生した地点を特定する」


「つまり、遭難船と同じ航路を進むということですか?」

アディス博士が眉を上げる。

「そうだ」とクラフト。

「事故の可能性もあるが、外部の脅威、未知の要因も否定できない。

 この航路を追うということは、我々自身が同じリスクにさらされるということだ」

沈黙が流れる。

未知宙域での単独航行。しかも、前方で消息を絶った艦と同じルートを辿る。

クラフトは続けた。

「だが、遭難船には二十五名の乗員がいた。生存の可能性がある以上、リスクを取る価値はあると判断した」

医療主任のミナが小さく頷いた。

「捜索には、プロメテウスの探索機能を最大限に使う」

クレアがホロテーブルを操作し、五つの青い光点を航路上に配置した。

「本艦の前方五光時単位ごとに、無人シャトルを展開。長距離センサーをフル稼働させ、航路全域のスキャンを継続します」

ゲイル少尉が短く確認した。

「護衛チームは即応態勢で格納庫待機、という理解でいいか?」

「その通りだ」とクラフトは頷く。

「戦闘発生時には、シャトル隊を迎撃・防衛に転用する。

 航海期間は往復で二十日。全員、長期ミッションの覚悟をしておけ」


ブリーフィングが終わる頃には、全員の表情に決意が宿っていた。

未知の宙域。未知の脅威。

その向こうに何が待つのか、誰にも分からなかった。


――――


出航から6日後。

プロメテウスは〈セクターΘ-09〉外縁、小惑星帯に差しかかっていた。

ブリッジの窓越しに、大小無数の岩塊が、光を反射しながら静かに漂っている。

船体は自動航行モードに切り替えられ、微細な航路修正を繰り返していた。


クラフトは艦長席でモニターを見つめていた。

静かな航海が続いていたが、船内にはわずかな緊張が走っている。


「キャプテン、長距離センサーに反応あり」

ナビの声が艦内スピーカーに響いた。

「距離は?」

「およそ1.4光秒先。大型船体反応。データ照合中、一致。貨物船〈イプシロン9〉です」

ブリッジの空気が一気に引き締まる。

クレアが別ラインを開く。

「呼びかけを開始します。こちらプロメテウス。応答願います」

静寂。

ノイズ混じりの通信音が数秒続いた後、返答はなかった。


「応答ありませんね、どうします? キャプテン」

カイが振り返る。


クラフトはしばらく考え、指示を下した。

「探索用ドローンを出す。まずは安全確認だ。ナビとクレアは空域全体を監視、

 カイ、ドローンの遠隔操作を頼む」


「了解!」


格納庫から、小型の球状ドローンが射出された。

推進ノズルから微弱な青光を放ちながら、無音の宇宙を滑るように進む。


やがて、貨物船〈イプシロン9〉の全貌がモニターに映し出された。

外観には損傷が見られない。

船体は無人のように静まり返り、ライトも航行ビーコンも消えている。

「外部被弾もない。なのに沈黙か」

クラフトが低く呟く。

カイがコンソールを操作し、ドローンを格納庫ハッチに接近させる。

「外部制御ライン、応答あり。ロック解除成功」

重い扉がゆっくりと開き、ドローンが内部へと滑り込む。

映像がブリッジの大型モニターに切り替わった。

無人の格納庫。

機材は整然と並んでおり、破壊の形跡はない。


「環境データを表示しろ」

「内部気圧は正常、酸素濃度も基準値。人影なし」


ドローンがさらに奥へと進む。

薄暗い通路を抜け、居住ブロックらしきエリアへ。

その瞬間、カイの手が止まった。


「キャプテン」

彼の声がわずかに震えていた。

モニターの映像に、人影が映った。

床に倒れたまま動かない複数の人影。

「死体、のようです。三名確認。胸部、頭部に損傷」

カイが顔をしかめながら報告した。

「交戦の跡か」

クレアが小さく息を呑む。

クラフトはモニターを凝視したまま、低く命じた。

「艦内全域を確認してくれ。生存者がいる可能性は?」

「現在のところ生命反応はゼロです」

ドローンがさらに進む。

廊下の壁面には焼け焦げた痕があり、レーザー弾痕のような跡が点在していた。

制御区画の扉は内側から破られ、機器の一部は焼失している。

「内部戦闘?だが、敵はどこに?」

カイは唸るように言った。

AIへのアクセスも試みられたが、応答はなかった。

艦内ネットワークは完全に沈黙している。

まるで誰かが、意図的に船の中枢を“切断”したかのように。

ブリッジに再び沈黙が訪れた。

映像の中では、無人の通路をドローンが漂っている。

クラフトは腕を組み、モニターを見つめたまま呟く。

「艦内全区画の確認完了。25名の遺体を確認。複数の戦闘痕らしきものが確認されましたが艦内に脅威の確認はされませんでした」

「そうか。全員死亡。外部損傷なし。AI応答なし」

そして、わずかに目を細めた。

プロメテウスの艦橋を、冷たい緊張が包み込んだ。

「観測データをラボに送ってくれ。博士、分析を頼む。脅威の可能性がなければ乗船して艦内の調査を始める」

次なる決断が、彼らを未知の恐怖へ導こうとしていた。

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