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誰もいない宇宙船で目覚めたら最強だった件について  作者: Sora
六章 エリジオン星系 辺境宙域編

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079_新造船の受け渡し

カイが合流して数週間、母船の建造が完了した。

シルバーナは薄い青の大気層を突き抜け、ゆっくりと上昇していた。

下方には惑星の都市群が広がっている。

光の点滅がリズムを刻み、そこに人々の営みと、果てしない技術文明の呼吸が感じられた。

上方には星間ネットワーク中継衛星が淡く光り、薄い電子の霧を帯びて空を覆っている。


「高度維持、重力安定。推奨上昇コースに移行します」

ナビの声がコックピットに響いた。

クラフトは操縦桿から手を離し、ゆっくりと息を吐く。シルバーナの手動操縦を解除しナビの自動操縦に切り替えるて背後のスクリーンに映る宇宙の輪郭を見た。

銀青の地平線の向こう、そこに浮かぶ一つの影があった。

巨大な艦体、艶のある灰銀色の外装、それが、彼らの新しい母船だった。


「あれが、私たちの新しい船ですか」

 クレアが静かに言った。

 その声には、感情を抑えたはずのアンドロイド特有の硬さの中に、微かな高揚が混ざっていた。

「推奨距離内に到達。母船から通信要求」

「つないでくれ」

ナビが瞬時にリンクを開く。ディスプレイに幾何学的な紋章が浮かび上がり、透き通るような中性音声が流れた。


《こちらライムワード級母艦AI。所有者データ照合を開始します》

「こちらキャプテン・クラフト、IDコード〈C-07F01〉、傭兵登録番号N-4382。アクセスを許可されたし」

《認証完了。ようこそ、キャプテンクラフト》


 通信が切れると、巨大な艦の格納ゲートが静かに展開した。

 光が差し込むように、内部のランウェイが明るく照らし出される。

 その奥行きは、シルバーナがそのまま数隻収まるのではと思えるほどに広大だった。


「でかいな」

 クラフトは思わず呟く。

外殻装甲を走るパイプラインや電磁制御フィールドの光が、彼の義眼に精密な数値として流れ込んでいく。

「シルバーナにちょうどよいサイズの格納庫ですね。設計通りです」

 クレアが冷静に応じた。

「すごい……これが、ライムワード級……」

カイが感嘆の声を上げる。彼の眼前に広がる光景は、まるで人工の大陸だった。


着艦シークエンスが始まる。

シルバーナの機体が磁力クランプに固定され、係留アームが左右から滑り込む。

微かな振動。気圧調整の音が鳴り、艦内の警告灯が順に緑へと変わっていった。

静寂。

それは、戦いでも航行でもない、ただの「到達」を告げる音だった。


クラフトはコクピットを出て、艦外へのハッチを開く。

格納庫の空気はわずかに金属の匂いがした。高圧酸素と潤滑剤の混ざる匂い――新造艦特有の、人工的な香り。

そこに待っていたのは、エリジオン・アストロテック社の担当官と数名の技術者たちだった。

彼らは敬礼を交わし、形式的な手続きを進める。


「キャプテン・クラフト。母船ライムワード級〈ロットE-12〉、完成検査を経て本日正式引き渡しとなります」

「確認した。オーナー登録、キャプテン・クラフト。船の受領を確認した。」

 担当官が差し出したホログラフィック署名デバイスに、クラフトは指を触れた。

 義眼の奥で電脳署名が重ねられ、本人照合が完了する。

「これをもって、本艦は正式にあなたのものです」

 その言葉を聞いても、クラフトは何も言わなかった。ただ小さくうなずく。


 続いてAI連動シーケンスが開始された。

 ナビの演算コアが起動し、母艦とのリンクを構築する。

 シルバーナのメインフレームから、ライムワード級の艦内ネットワークへとデータが転送される。

 技術者が操作台で確認を行い、複数の光点が同期していくのを見守った。


「プロトコル互換率、98.7%。設計通りの精度です」

 通信端末から流れるナビの声に、クレアが微かに笑みを浮かべる。

「ナビも満足しているようですね」

「当然です。わたしの新しい身体ですから」


数分後、すべての連動プロセスが完了した。

母艦の艦橋区画への通路が開かれる。

エレベーターが無音で上昇を始め、視界の外へ都市の灯が遠ざかっていく。


「ここが、ブリッジです」

技術主任が扉を開くと、そこには圧倒的な空間が広がっていた。

半球状のホロスクリーンが艦の前方全域を覆い、無重力制御シートが並んでいる。

床下の光導管が淡く光り、空気は静止したように澄んでいた。


クラフトはゆっくりと中央の船長席に歩み寄る。

手をかけると、椅子が彼の体形に合わせて自動調整される。

周囲の計器が次々と起動し、電子音が低く響いた。

その瞬間、義眼の視界にナビからの通知が浮かぶ。

《リンク完了。シルバーナのシステムが母艦ネットワークに統合されました》


外の景色が変わる。

ホロスクリーンには、惑星の輪郭と、その上に浮かぶ中継衛星群、そして遠く光る星々が映し出されていた。

その静けさの中で、クラフトは低く呟く。

「いい眺めだ」


カイがブリッジの奥で息を呑む。

「これが……宇宙、か」

クレアが彼の肩に手を置く。

「ええ。私たちの新しい航路です」


ナビの声が穏やかに響く。

「新母船の全機能掌握を完了。いつでも出港可能です。慣例にならい、艦名の命名を求めます。キャプテン、いかがいたしますか?」

クラフトはしばらく無言で前方の光を見つめていた。

「艦名は決めている。『プロメテウス』だ」

ナビが短く応答する。

「登録完了。母船ライムワードプロメテウス。稼働シーケンスを開始します」


ブリッジ全体が静かに振動した。

低音のエネルギー共鳴が床を伝い、艦の深部から光が立ち上がる。

星々の光がスクリーンに滲み、銀色の海がゆっくりと流れていく。


クレアが小さく微笑む。

「プロメテウス。いい響きですね」

「ああ、遥か彼方の星系の神話から引用した。神々の火を盗み、人に与えた存在だ」

「それはあなたのことでは?」

「いや、俺はそれを受け取った側だろう」

クラフトは静かに答え、椅子にもたれ、目を閉じた。


ブリッジの天井に文字が浮かび上がる。

〈母船ライムワードプロメテウス 稼働開始〉


静かな始まりだった。

だがその背後で、無数の星々が、新しい旅の行方を、黙って見下ろしていた。

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