表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰もいない宇宙船で目覚めたら最強だった件について  作者: Sora
六章 エリジオン星系 辺境宙域編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/88

078_スパルタ教育とクレアの思惑

「ドック、接岸完了。これよりギルド回線に接続します」

クレアの澄んだ声が、静寂を取り戻したシルバーナのブリッジに響いた。磁気係留がロックされ、シルバーナはようやく息をついたようにわずかに揺れる。艦内に漂っていた戦闘の緊張感も、今はすでに過去のものとなっていた。

「回収した戦利品の登録を開始します。艦載データベースと照合、並行してギルドへの転送処理を行いますね」

ブリッジ中央のホログラムに、次々と現れる海賊機の撃墜ログ。クレアは手際よくそれらを選別し、シルバーナのメモリ空間から不要データを整理してゆく。

「すごい数……」

クラフトが後方の操舵席から覗き込み、感嘆の声を漏らした。

「22機……そんなに落としてたか?」

「ええ、小型機中心ですが、分析結果では戦闘不能の機体が22。回収可能パーツ数はおよそ三百を超えています」

「ふむ……」

クラフトは腕を組み、ギルドからの査定結果が表示されるのを食い入るように見守る。そして――表示された金額に、顔がほころんだ。

「撃墜報酬、7,700万クレジット……さらにパーツ売却で2,000万か! 合わせて9,900万クレジット!討伐報酬でこんなに気持ちいい数字は久しぶりだ!」

「キャプテン……子供みたいに笑うの、やめてください」

「だってよ、クレア。これだぜ? 海賊討伐って、こんなに稼げたのか……今まで俺とお前とナビだけだったから、回収なんて二の次だったが……」

クラフトの視線が、ブリッジ脇に立っている少年、カイ・レインへと向けられた。

「お前のおかげだよ、カイ。お前はいい傭兵になれるぞ!」

「いや、ちょっと待って、それ誉めてるのか……?」

「もちろんだとも!」

クラフトは勢いよくカイの背を叩き、照れたように苦笑する彼の肩をぐいと引き寄せる。

「よし、ノアリスの高級焼肉店、行くぞ! 今夜は盛大に祝う!」


焼肉パーティの翌日から、クラフトはというと――

「お、また海賊討伐の依頼が出てる……うん、これ行こう!」

「キャプテン、またですか? 今週すでに三件目です」

「だって儲かるんだもん」

クレアがあきれ顔でため息をつく横で、クラフトはギルドの依頼一覧に夢中だ。儲かるとわかった瞬間から急に勤勉になるキャプテンに、クルーの誰もが呆れ半分、諦め半分だった。

そんな中、カイの毎日は一変した。

「え、今日は模擬戦? 昨日は戦闘訓練だったのに……」

「では始めますよ。武器を取って、構えてください」

クレアのスパルタ教育は止まらない。

戦闘訓練、戦術理論、艦内整備、緊急対応、学ぶべきことは無限にあるように思えた。

「無理だ、凡人の俺には……とてもじゃないけど……」

訓練後、肩を落とすカイの前に、クレアが静かに立つ。

「カイ、一つ聞きますが。あなた、キャプテンに勝つのは無理だと思いますか?」

「……対人戦闘なら100%無理」

「エアバイクや戦闘艦なら?」

「うーん、100回やったら99回は負けるね。でも、準備を重ねて、工夫して、最後の1回なら……勝てるかもしれないとは思う」

クレアは微笑んだ。

「カイ、その通りです。最初から天才なんていません。あの技術も、才能に見えるものも、努力の積み重ねなのです。あなたなら、届きます」

「……」

言葉を返そうとしたカイは、一拍置いてから顔を引き締める。

「クレアさん、おれは……」

だがその言葉は、クレアの明るい声に遮られた。

「さあっ、続きを始めますよ! 構えなさい!」

「ええええぇぇ……」


夜。ブリッジには薄明かりだけが灯り、外宇宙の星々が黒い窓に滲んでいた。

「……データ転送、完了。ギルドからの支払いも確認しました」

ナビとクレアが作業をすすめながら会話をする。

ナビの猫型リモートボディは、椅子の上で丸くなっている。だがその声はいつもの冷静さを保ったまま、ブリッジに響く。

「カイの訓練、順調なようですね」

「筋はいいですね。対人戦闘はまだまだですが、整備の腕はあと数ヶ月で一人前といえるでしょう」

「戦術思考と分析能力が加われば、傭兵としても申し分ない」

「彼は、当初は技術職志望でしたけどね」

クレアは優しく笑う。

「才能を見ると……育てたくなるのが人情というものです」

「それだけでは説明がつかないですね」

ナビの皮肉めいた言葉に、クレアは肩をすくめる。

「まあ、そうですね。実務的に言えば……ライムワードを動かすには、相応の副指揮官が必要ですから。クラフトが前線に出る以上、ブリッジを任せられる存在がいるに越したことはありません」

「彼なら?」

「時間をかけて訓練すれば、十分可能です」

「問題は、その前に壊れてしまわないか……」

「……大丈夫。新しい船には、専用の医療器材が揃っています」

クレアは一瞬だけ目を伏せ、それから微笑む。

「頭だけ残っていれば再生可能ですよ」

ナビの猫耳が、ぴくりと動いた。

「……やはり、あなたはときどき怖いですね、クレア」

「そうでしょうか?」

静かなブリッジ。

そこに響くのは、人工知能とアンドロイドが交わす、どこか温かく、そして果てしない未来への静かな会話だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ