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誰もいない宇宙船で目覚めたら最強だった件について  作者: Sora
六章 エリジオン星系 辺境宙域編

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077_久々の海賊討伐

カイが合流して数日後。

シルバーナのブリッジでは、クラフトとクレアが傭兵ギルドの依頼案件を眺めていた。

「キャプテン、傭兵ギルドから海賊討伐の依頼が出ています」

 クレアがいつもと同じ冷静な声で伝える。

「辺境惑星から帰還する商船を狙っての活動が活発化しており、その討伐依頼ですね」

 クラフトは顎に手を当ててしばらく考えた。

「しばらく通常の海賊討伐は受けてなかったな。カイも加わったことだし、初心に戻るのもいいかもしれない。よし、受けよう!」

 その言葉に、端末を確認していたカイが顔を上げる。やや緊張した面持ちだ。

 それを見たクレアが優しく声をかける。

「初任務は緊張するものですが大丈夫です。通常の海賊船相手なら、シルバーナが後れを取ることはまずありません」

「大丈夫です。初めてのことでちょっと緊張しているだけです」

 カイが小さく笑った。だが内心は違っていた。胸の奥がじんわりと熱くなる。

 とうとうこの瞬間が来た。守られる側から、守る側へ。あの日、レースで見た星の海を、今は仲間と共に飛んでいる。


「今回は肩慣らしも含めてだから、ブリッジでどんなもんなのか見てみるのが良いだろう」

 クラフトが言葉を重ねる。

「撃破後は鹵獲品のピックアップをやってくれ。回収用ドローンの操作はできるか?」

「シミュレーターでは習得済みです。ドローン操作は初めてではないのでいけます」

「よし、決まった。早速受注だ。クレア、手続き頼む。アストロテックにも数日あけると連絡しておいてくれ」

「承知しました」


 シルバーナはゆっくりと発進した。

 カイは前方の広がる宇宙に目を奪われた。

 目の前に広がるのは果てしない闇。そして無数の星の瞬き。

 その光に、幼い頃に描いた夢を重ねる。自分が宇宙に立つ日が、本当に来たのだと実感する。


「良いもんだろ」

 クラフトが隣で微笑む。

「ええ、本当に」


「ナビ、星図を出してくれ。そいつに直近の商業船の航路と予定されている一週間先までの予定をプロットしてくれ」

「承知しました」

 立体的な航路図がブリッジ中央に浮かび上がる。

 過去のデータ、海賊の発生ポイント、今後の予測航路が重ねられていた。

「当然、海賊共も同じ襲撃ポイントでは襲わないだろう。とすると、狙われやすいのはこの二カ所だな。小惑星帯の近く。海賊が隠れやすい。あとはこの月の近く。理由は同じだ」

「どちらに目星をつけるかだな。カイ、どう思う?」

「恐らく小惑星の方ですかね。月の近くは監視衛星からの距離も近いので、海賊は嫌がりそうです」

「そうだな。海賊が追っ手を嫌うとしたら、小惑星帯の方が襲撃ポイントとしては可能性が高そうだ。ナビ、進路を小惑星帯の外縁部に取ってくれ。そこで待機だ」


 待つこと三十六時間。

 カイはカーゴルームで回収用ドローンの整備を終えたところだった。

 その時、ナビの声がブリッジに響いた。

「辺境地域からの船団より入信。海賊船の襲撃を受けているとのことです。数は三十程度。護衛はいるものの、応援を要請されています」

「ドンピシャだな」

「カイ、ブリッジに戻れ。ナビ、現着までの時間は?」

「三分十二秒」


 到着したシルバーナの前に、無数の光が乱舞していた。

 三十機の海賊船が一隻の大型コンテナ船のスラスターを集中攻撃している。

 すでに二基のうち一つは破壊され、機動力を失いかけていた。

 護衛機は抵抗していたが、数に勝る海賊たちに押されていた。


 カイの心臓が早鐘を打つ。

 映像では何度も見た光景。しかし今、それが現実として目の前にある。

 戦場 命が、火花のように散る場所。


「ドローンの準備はどうだ?」

「問題ないです。カーゴルームに入る程度で良ければ対応可能です」

「それは心強い。じゃあ、いくぜ」


 クラフトの言葉と同時に、シルバーナは一気に加速した。


 まずはスラスターに群がる敵を落とす。

 ブラスターが閃光を放ち、二機の海賊船が一瞬で爆散。

 続けて誘導弾が後続機を狙う。


「クレア、コンテナ船に通信つなげ。援護を伝えろ」

「了解です」

「カイ、よーく見とけ。これが傭兵の戦いだ」


 その戦いぶりは圧巻だった。

 旋回しながら前方を塞ぐ六機をブラスターと誘導弾の弾幕で一掃。

 十機、十五機と海賊船が次々に沈む。

 わずか十分後にはその数は半減。

 生き残った七機が撤退を始める。

「逃がさない」

 クラフトがにやりと笑い、シルバーナは急加速。

 超長距離からのブラスターの狙撃が、次々に撤退する海賊を貫く。

 やがて全ての反応が星の海へと消えた。


「どうだ、カイ」

 振り返るクラフトに、カイは答えなかった。

 彼の視線は、モニターに映る残骸に注がれている。


 ──これが、戦い。

 自分がいま、確かにその渦中にいることが、鼓動の一つ一つに焼きついていた。

 恐怖もある。だが、それ以上に、高鳴るものがある。

 この空間で、自分は誰かを守る側にいる。

その実感が、身体中を駆け巡っていた。


「キャプテン、回収ドローンはどのタイミングで射出しますか」

「お、おう。ナビ、クレア、撃ち漏らしの確認を」

「索敵範囲内に残存機なし」

「よし、カイ。ドローン射出、回収始めてくれ。クレア、コンテナ船に被害状況確認を」


 カイの手際は鮮やかだった。慎重かつ無駄のない操作で、十機のドローンを同時に操り、残骸から価値あるパーツを次々と回収していく。その様子をモニター越しに見ていたクラフトは、思わず満足げに頷いた。「初任務とは思えないな……いい腕だ」


「おっ、あのスラスターはまだ使えそうだぞ、どうだ?」

「スラスターは整備次第では使えますが、当たり外れが大きいので最後にカーゴに余裕があれば回収します」

「なるほど、任せた!」


「キャプテン、コンテナ船からです。人的被害はゼロ。スラスターが片方使えないそうですが、自力で戻れるとのことです。ここからなら追加の護衛は不要とのこと」

「了解だ。人死にが出なかったのは何よりだ。これで俺たちはパーツあさりに専念できる」


 クラフトの顔が自然と緩む。

 クレアがやれやれといったように肩をすくめた。


 こうして、シルバーナの久々の海賊討伐は幕を閉じた。

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