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誰もいない宇宙船で目覚めたら最強だった件について  作者: Sora
六章 エリジオン星系 辺境宙域編

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75/88

074_エアバイクレース決勝戦 後編

ちょっと早いですが後編です

●ガルデ渓谷・終盤の攻防

渓谷内、残るカーブは三つ。

カイの機体は依然として4番手。

鋭角なコースと岩壁に囲まれたこの区間では、ナビの予測ルートを使っても、順位を上げるのは難しい。

(……チャンスは、出口後の直角ターンだ)

渓谷の先、わずかに視界が開けてくる。

その先に広がる平原と、中央にぽつりと聳える一本の岩山。

そこが、直角ターンの目印だった。

渓谷を抜けた瞬間から岩山まではおよそ1キロ、岩山で直角に曲がり、ゴールまでは10キロの直線が続く。

あのターンで抜けなければ、もう追いつけない。

カイは判断を下した。

ターンへ向けて、機体のラインを内側へ寄せる。他のどの機体よりも、限界ギリギリの最短距離。

周囲の機体はスピードを落としてコーナーに備える。

だがカイだけは、加速する。

「カイ選手、さらにスピードを上げたァ!!」

司会の絶叫とともに、観客席がどよめいた。

《ナビ、1号旋回、準備》

「ワイヤ射出まで、カウント3秒にゃ!」

ナビの声に、カイは軽くうなずく。

「コース取りは任せる。射出は俺がやる」

「了解にゃ!」

機体が唸るような音を立てて加速する。

ナビが即座にターゲットを検索し、カイのヘルメットディスプレイに標的マークが浮かび上がる。

岩山の下部、固い岩盤。フックが打ち込める、唯一のポイントだ。

「……行くぞ!」

「カウント、スタートにゃ、3、2、1」

「射出!」

ガシュン!

射出されたワイヤーフックが、唸りを上げて岩盤に突き刺さる。

次の瞬間、カイの機体が爆音を響かせながら、円を描くように旋回した。

速度をほぼ落とさず、ワイヤーを軸にして鋭角に曲がる。

遠心力が体を引きちぎるように襲い、機体が軋む音が響いた。

(……今だ!)

「ワイヤーカットにゃ!」

パシュッという音と共に、ワイヤーが自動で切断される。

反動で生まれた推進力がそのまま前方へ変換され

「抜いたァァァ!!」

スクリーンが大写しにするその瞬間、カイの機体が一気に加速。

ターンを抜けた直後、カイは2番手に浮上していた。

会場が、爆発した。

割れんばかりの歓声。スタジアム全体が総立ちになる。

「こんな機動、見たことがない! なんという判断だッ!」

司会の絶叫が、スピーカーを揺らす。

「旧式の機体ながら、その度胸、操縦技術、そしてアイデア、カイ選手、一気にトップグループに食い込んだァァァ!!」"


●決戦、直線勝負

「今の機動……ナビが言っていたやつか。見事だ! 決めやがった」

観客席で、クラフトが興奮気味に身を乗り出す。

「ええ……本当に。でも」

隣のクレアが眉を寄せたまま、前方を凝視する。

「一位が、予選よりも速いです。あれでは……直線で勝てる要素はないかと。あと30%前後の加速度が不足しています」

「確かに。機体性能の勝負だと、分が悪すぎるな……でも、よくやったよ。あそこまでやれるとは思わなかった」

「ええ。そうですね」

渓谷を抜け、レースはいよいよ10キロの直線勝負へと突入した。

カイの機体は2番手。あの旋回で一気にトップを奪うつもりだった。

だが、思った以上にトップが速い。

(……届かない)

わずかに詰まったものの、決定的な差は埋まらなかった。

このままでは終わる――そんな予感が、カイの背を冷たく撫でた。

《残り9キロ。現在2番手。発火剤を使うしかないにゃ》

「ナビ、トップを抜くのに、加速はどれだけ足りない?」

「31.2%にゃ。発火剤を使っても届くか分からない領域にゃ……」

沈黙。カイはほんの数秒、逡巡した。

スラスターがそれに耐えきれる保証はない、何秒もつかもわからない。

でもこのまま終わるわけにはいかない。

「ナビ、すまない。後で回収に行く」

「なんにゃ?」

その声に答える代わりに、カイは非常射出ボタンを押した。

――シュバッ!!

次の瞬間、猫型のナビボディとAI基盤が機体から空中へ射出される。

「にゃ~~!?」

ナビの声が急速に遠ざかっていき、自動展開したパラシュートが砂漠の空に開き、白い布がふわりと宙に舞った。

同時に、サブタンク、使用済みワイヤー、冷却材ユニット、予備燃料管、次々に不要なパーツがカイの機体から切り離され、落下していく。


「カイ選手の機体から、なにやらパーツがはがれております! ここにきて、機体トラブルかッ!?」

実況が混乱する中、クラフトは口元を吊り上げた。

「……そうか。届かない可能性は考慮済みか。悪くない」


空中でふわふわと降下するナビが、パラシュート越しにカイの機体を見上げる。

「もう呆れて怒る気にもならないにゃ……AIの切り離しによる軽減9キロ、パーツ切り離しで軽減50キロ、加速補正値21%、発火剤使用でさらに加速可能……!……問題は、スラスターがもつかどうかにゃ……!」

その頃、カイは発火剤をメインタンクへ直接流し込んでいた。

緊急開放弁が音を立て、発火剤が高温で気化する。

スラスターが赤く灼けるように光を放つ.


「……行けェッ!!」

 ――ドンッ!!


機体が、爆発したかのような音とともに加速する。

スラスターが悲鳴を上げ、機体全体が軋みながら、猛烈な勢いで追いかけた。

観客席が揺れる。

大歓声。悲鳴。拍手。叫び。スタジアム全体が総立ちになった。


「カイ選手、まさかの機体軽量化、そして謎の加速!!

ああっと、今、トップとの距離が一気に詰まっていく――!」


残り3000メートル

 風を切る音が、金属の軋みと混ざり合う。


2500メートル

 機体温度、上昇限界ギリギリ。スラスターの噴射が波打つ。


2200メートル

 カイの視界に、トップ機の背中が大きく映る。


1800メートル

(……まだ届かない!)


1000メートル

 カイは発火剤のバルブをさらに開いた。


「いけええええッ!!」


ゴールッ!!司会の声が空に響く


判定結果

ゴールラインを越えた瞬間、判定は写真判定へと持ち込まれた。

1位、2位、その差は、肉眼では捉えきれないほどわずかだった。

数秒後、スクリーンに結果が表示される。


  勝者:カイ選手

  2位との差:0.092秒――!


そしてその直後。

機体後部で、スラスターがひときわ大きな悲鳴を上げ

パシュン、という鈍い破裂音とともに、噴射が止まった。

高温に耐えきれず、スラスターの一部が焼き付き、赤黒い煙が尾を引く。

完全に、動力を失った。

機体はそのまま惰性で数百メートル進んだあと、高度を落としながら失速。

砂の地面に、ずしんと腹をつけて滑り込んだ。

カイは、ヘルメットの中で小さく息を吐いた。

「……よく、もったな」



●エピローグ

砂の海にぽつんと落下した、小さなパラシュート。

白い布の下から、もぞもぞと猫型のAIが顔を出す。

「……ったくにゃ……」

耳に詰まった砂を首を振って出しながら、ナビは砂に埋もれかけた自分のAI基盤ユニットのケースを引きずり出した。

ケースには細かい傷が無数に付いている。

「AIを砂漠に射出するなんて……にゃんの冗談だにゃ……」

ぶつぶつ言いながら、ナビはケースを引きずりながら、トコトコと歩き始める。

「……自分の処理ユニット、自分で運んでるAIなんて聞いたことないにゃ……

っていうか、どこの世界にそんな雑な扱いされるAIがいるにゃ……」

ひときわ大きくため息をつく。

「……戻ったら正式に抗議するにゃ」

砂丘をよじ登る。

遠くに、スタジアムの観客席が歓声に沸いているのが聞こえる。

ナビの聴覚センサーはその内容までも拾っていた。

文句を言いながらもナビの足取りは軽かった。


ギリギリの勝利

こんなレースしてみたいです^_^

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― 新着の感想 ―
そこに現れるは武装砂賊、降ってわいた高く売れそうな電子部品ににっこり・・・とはならないよなw
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