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誰もいない宇宙船で目覚めたら最強だった件について  作者: Sora
六章 エリジオン星系 辺境宙域編

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069_《器》を満たすもの

ご閲覧ありがとうございます。

少しでもお楽しみいただければ幸いです。

翌朝。ノアリスの空は晴れ渡り、都市全体が白い陽光に照らされていた。

 《シルバーナ》の艦内、カフェエリアには、柔らかな音楽が流れている。人工重力と空調によって心地よい朝が演出され、クラフトはコーヒーマグを傾けながら窓の外を見つめていた。クレアは対面の席に座り、今日の予定をまとめたデータパッドを開いている。

「……やっぱり、買うことにしようと思う」

 クラフトがぽつりとつぶやいた。

「はい、そう言うと思いました」

「問題はこの船の可能性だ。あんなバケモノ級の船を買って、いままでどおり傭兵稼業だけやってるってのは、ちょっと無理がある」

「はい。投資した資金を回収するだけでなく、船の性能を活かしきるには、それに見合った事業が必要になります」

 クラフトは静かにうなずく。

「新たな収入源を作ろうと思う」

 その一言に、彼女の瞳がわずかに揺れた。

「傭兵業以外で……ということですか?」

「そう。あの新船の開発設備。エリジオン・アストロテックが積んでる研究プラットフォームは、軍用級を超える解析能力を持ってるって話だった」

「確かに。ライムワード級は、未踏宙域の研究船としての用途も想定されています」

 クラフトはデータパッドを開き、いくつかの技術展示会のレポートを転送した。

「主要メーカーの資料、論文データ、最近の展示会記録……ざっと読んだ感じ、どうにも偏りを感じるんだよな」

「偏り、ですか?」

「ああ。ハードウェアの進化に比べて、ソフトウェアの進化が明らかに遅れてる。特にAI周辺、航法制御、複合センサー解析、パターン予測。このへん、まだ旧世代の改良型ばかりだ」

 クレアが少しだけ驚いた表情になる。

「たしかに……近年はシェアを持つ大手が技術改良で利益を維持しており、根本的な構造改革や新技術の導入には消極的な傾向があります」

「だろ? 逆に言えば、そこには今はまだ“穴”がある。狙える市場だ」

 クラフトはにんまりと笑った。

「キャプテン、顔が、守銭奴モード、発動ですね……」

 クレアが小さくため息をつく。だが、否定の色はない。

「どの分野に注力されますか?」

「まずは二つだ。ひとつは、“航法ナビゲーションAI”。もうひとつが“多変数予測アルゴリズム”。」

「前者は、既存の星図に依存せず、未登録空間の探索を補助する機能。後者は……」

「複数のデータソースを組み合わせて、未来の行動や環境変化を推定する。戦闘にも使えるし、経路選定や災害回避にも応用できる」

 ナビの猫型ボディが、ブランケットの上で寝転んだまま口を開く。

「設計フレームと初期アルゴリズムなら、移民船のライブラリにも素材が残ってるにゃ。活用すれば、ゼロから作るより三分の一の手間で済むにゃ」

「そこに《シルバーナ》の機動ログと俺の義眼記録を加える。現場データは山ほどある」

 クラフトの声には、確信がこもっていた。

「シミュレーションモデルを走らせるのは、あの新船のラボだ。出力性能は現行の十倍。解析は任せるぞ、ナビ」

「にゃ。デバッグも最適化も全部引き受けるにゃ。AIの仕事はAIにゃ」

 クレアがふっと微笑んだ。

「本気なのですね、キャプテン」

「ああ。稼ぐためじゃない。船を、そして旅を“持続可能”にするためだ」

 彼は立ち上がり、窓際へと歩いた。

 ノアリスの空。その向こうに広がる、まだ誰も知らない宇宙。

「やるからには、やり切る。目指すのはただの航法AIじゃない。俺たちだけの、“次世代航法システム”だ」

 クレアとナビが顔を見合わせる。

 《シルバーナ》の船内に、静かな意志の光が満ちていた。

 次なる航路を決めるのは、星図ではない。彼ら自身の、意思と技術。

 その第一歩が、いま静かに始まった。

お読みいただきありがとうございました!

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引き続き、よろしくお願いいたします!

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