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誰もいない宇宙船で目覚めたら最強だった件について  作者: Sora
五章 バックス星系 第21回・銀河産業技術展示会編

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066_勝利の余韻そして掛け金はいくらになったか(^^♪

やっぱり、まつりの後はパーティーですよね

アリーナ中央の巨大ステージ。歓声を背に、壇上へと歩む三つの影――キャプテン・クラフト、オペレーターのクレア、そして猫型ボディの戦術AI・ナビ。

 ライトの照り返しが金色のトロフィーに反射し、眩しさに思わず目を細めると、司会者がいつもの絶叫トーンで結果を読み上げる。上位四チームに授与される栄光と賞金。その総額がスクリーンに躍るたび、客席が沸き返った。

 クラフトの視線は、数字の羅列に釘付けになる。30億クレジット。準優勝が10億、三位と四位は5億ずつ。口元が緩む。

「……顔」

 すかさずクレアが小声で注意した。

 クラフトは咳払いし、無理やり表情を引き締める。トロフィー越しに視線を巡らせると、イレーネはバイザーマスクの奥で感情を隠し、ダリウスはスター選手よろしく客席に手を振っていた。

 司会が締めのハイテンションで叫ぶ。

「本日20時より、栄えあるトップ三十二名による祝賀パーティが開催されます! 全員、必ず出席してくださいッ!」 


   *  *  *


●パーティー会場にて

「……キャプテン・クラフト」

 声が背後から落ちてきた。少し低め、しかし濁りのない音色。

 振り返ると、仮面のようなバイザーとパイロットスーツ姿の女性が立っていた。

イレーネ・シュヴァルツ、先ほどまで激闘を繰り広げた相手だ。

表情は読めないが、その立ち姿には、剣士にも似た高潔さがあった。

「見事な操縦技術だった」

「ありがとう」

「戦術構成も、完全にこちらの予想を上回っていた。素直に祝意を述べます」

 イレーネは、わずかに頭を下げる。

「……少し無粋な質問を」

 言葉を選ぶように、イレーネは続ける。

「あなたの機体には、いったい何基のAIが積まれていたのだ? あの回避パターン、あれは並の演算では追いつかない」

「なるほど」

 クラフトは笑って肩をすくめた。

「気になるなら本人に聞いてみたらいい」

 そう言って視線を送った先には、グラスを両手で抱えたクレアと、その腕にちょこんと収まる猫型ボディのナビがいた。

「女性型AI、カテゴリ4?」

 イレーネはクレアに一歩近づき、少しばかり警戒を解いた声で問いかける。

「まさか、一人であの演算処理を?」

クレアは、静かに首を横に振った。「私は補助です。船の本体AIはこちらです」

 そう言って、腕の中の猫を指差す。

「……こちら?」

 イレーネの眉がかすかに動く。

「にゃ!」ナビはナゲットをくわえたまま、勝ち誇ったようにうなずいた

 イレーネは一瞬言葉を失い――そして、抑えきれなくなった笑いがこぼれる。

「……猫? この……毛玉が?」

「毛玉とはなんにゃ!」

 耳がぴくぴくと反応し、尻尾がピンと跳ね上がる。ナビの目が鋭く三角形になった。

「負けたくせに生意気にゃ!」

 笑いが止まらなくなるイレーネ。

 ぐっと口元を押さえるが、どうしても笑みが漏れてしまう。

「……いや、すまない。本当に、悪気はないんだ」

 目元に涙をためながら、イレーネはバイザーを外した。

 氷のように無表情と思われていたその顔に微笑みが浮かぶ。

その素顔は知性と静けさを湛えた、美しい人だった。

「……あなたが、戦術AI。失礼をした。本当にすごいと思う」

 しかし、その口元の微笑みが決定打だった。

「にゃ、笑ってるにゃああああ!!」

 ナビの尾が膨らみ、耳がぴんと立つ。

「これは失礼した」

 イレーネが再度頭を下げるも、目尻の笑みはもう隠しようもない。

「クラフト!今すぐ船に乗るにゃ!!反応弾で星ごとふっとばしてやるにゃ!!」

「……物騒なこと言うなよ」

 呆れたように言って、クラフトはシャンパンを一口。

 クレアは、そっとナビを撫でてなだめる。

「ほら、もう怒らない。いい子でしょ?」

「このボディがいけないにゃっ。ケチって猫型にするからややこしくなるにゃ!」

 それでも、誰もが笑っていた。

 勝者の夜に、わずかに差し込むユーモア。


■ギルド上層部

スーツ姿の幹部がクラフトに歩み寄る。

「優勝、おめでとうございます。いやはや……まさかブラスターと誘導弾で、ここまで派手な試合になるとは」

 肩をすくめながら、幹部は乾いた笑みを浮かべた。

「ルール内でしたからね」

「もちろん。しかし、驚きました。まさかこんな試合を見れるとは。キャプテンクラフト、ギルドでも過去の討伐記録を拝見しました。あなたは今、シルバーランク。もう数件、依頼をこなせば」

「ゴールド、ですか」

 クラフトが先回りして応じると、幹部は嬉しそうに頷く。

「政府や企業からの指名依頼も増えます。是非早めの昇格を決めて頂けるといろいろと話が進みやすい」

 クラフトは苦笑した。

「……まあ、考えておきます。あんまり注目されるのは好きじゃないんでね」

「その割に、今日の目立ち方は尋常じゃなかったですな」

苦笑


 ■セリーナとダリウス

「キャプテン クラフト」

名を呼ばれ、振り返ると、セリーナとダリウスがいた。

「……見事な決勝戦だった」

 セリーナが、はっきりとした口調で言った。目には曇りがなかった。

「負けたのも、納得できる」

「恐縮だな」クラフトは素直に返した。

 横でダリウスが、グラスを掲げて軽く笑う。

「一瞬、本気で傭兵に転向しようかと思ったけどな。やっぱり、俺にはレースの方が合ってるみたいだ」

 肩をすくめたその仕草は、悔しさというより、清々しさだった。

「それと……」セリーナが手を差し出す。

「戦術を見直す良い機会になった」

 クラフトは差し出された手をしっかり握った。

 勝者と敗者という関係ではなく、同じ空を翔けた者として。


パーティーはその夜、遅くまで続いた


   *  *  *


●深夜、クラフトの滞在先

ホテルのバルコニーで、酔いをさましつつ、タブレットの画面を見つめるクラフト。

にこにこだった。

トップベットの払い戻しが先ほど完了した。

「781億……桁が……桁がぁ……!」

嬉しさのあまり、口元が勝手に「ふへへ」とか言い始めている。

クレアは冷ややかに言った。

「キャプテン、もう少し筋肉を引き締めてください」

「いいんだ! 今日だけは許してくれ……見てみろ、ほら!」

クラフトはトップベットのマイページを開いて見せびらす。

掛け金:1.5億、倍率:521倍、払い戻し:781.5億クレジット。

「すげぇだろ!?これもう傭兵やめて富豪やるか!」

ふとクラフトの視線がランキングへと流れる。

「ん……?」

ランキング上位に、自分より上の払い戻し額があった。

掛け金:3億クレジット。払い戻し:1563億。

「……3億、この数字、見覚えが……」

クレアがさらりと言った。

「私です」

「えっ……お前、俺が賭ける時あんなに止めたのに!?愚かだって!」

「キャプテンのは家計費です。私のは余剰資金です」

クラフトは手すりに寄りかかり、がっくりと肩を落とした。

「ぐぅ……俺の勝利が数字で上書きされた……!」

「手柄を立てたのはキャプテンですから」

「言い方が上からすぎるぅ……!」

ふてくされたクラフトに、クレアが静かに近づき、彼の肩をそっと抱いた。

「それでも。私が賭けたのは、あなただけですから」

クレアの呼吸が伝わってくる。

「うぅ……やっぱり損得じゃねえか……!」

そう嘆くクラフトに、クレアはふっと小さく笑った。

「……ですが、私は最初から信じていましたよ。あなたが勝つと」


クラフトは、夜空を見上げる。

静まり返った、群星の海に、一際まぶしく白く輝く月が浮かんでいた。


「……月が、綺麗だな」

ぽつりと、クラフトが言う。

少しだけ、間が空いた。

「……はい、とても」

クレアは、かすかに視線を伏せながら答えた。

クラフトは、それ以上何も言わなかった。

ただ静かに、月を見つめていた。

そしてクレアもまた、隣に立ち、同じようにその光を見上げていた。

二人の影が、月明かりに静かに重なりバックス・メイジャの夜は更けていく。

月が綺麗ですね、いつか使ってみたかったのです

次回より新章突入です

まだまだ旅は続きます

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