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誰もいない宇宙船で目覚めたら最強だった件について  作者: Sora
五章 バックス星系 第21回・銀河産業技術展示会編

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065_バトルトーナメント決勝戦 ~海上決戦~

いよいよ決着です

●バトルトーナメント決勝当日 《オロチ・アリーナ》

 アリーナは、静かだった。

 昨日までの熱狂が嘘のように、天井スクリーンも、照明も、音も沈黙している。

 だが、それは嵐の前の静けさ。

 二万五千人を超える観客は、息をひそめ、次に訪れる「瞬間」を待っていた。

決勝戦。

あの司会者の声が空間全体に響く。

「Ladies and gentlemen——!!」

「ようこそお越しくださいました! 銀河統一バトルトーナメント、最終日ッ!

この一戦を制した者こそ、銀河最強の実機バトルパイロット!!

さあ、誰も見たことがないフィールド、誰もたどり着けなかった決勝の扉を、いま──開きましょう!!」

 天井スクリーンに、ふたりの名が投影される。

 CRAFT vs EIRENE

「さあ、まずはご紹介しましょう!!

「アルキオネ・ダイナミクス社の叡智を結集した、戦術演算の女王!!イレーネ・シュヴァルツ!!」

 コクピットに収まったイレーネの顔が、無表情のまま映し出される。

 その眼は、冷たい光を帯びていた。

「そして……対するは!傭兵ギルド所属、あるのは実力と沈黙だけ!

勝ち上がるごとに“何かがおかしい”と噂され、今や銀河最大の謎男!!

キャプテン・クラフト!!」

 コックピットで、クラフトは目を細めていた。


●午前10:20 クラフトVSイレーネ

2機の戦闘艇──《シルバーナ》と《マリア・ゼロ・スリー》が、ゆっくりと高空へ浮上していく。

会場のボルテージはすでに最高潮。空中に浮かぶカウントダウンの数字が、深紅に染まりながら減っていく。

──5。──4。──3。──2。──1。

「バトルスタート!!」

2機は真正面から一気に加速、回避行動すら取らず一直線に突進する。観客席がどよめきに包まれる。

「ぶつかるぞ……いや、すれ違う!」

「ブラスターが閃く」

すれ違いざま、クラフトとイレーネが同時にブラスターを放った。照準、反応、回避

そのすべてがコンマ数秒で完結する。

両機はわずかに機体をスライドさせ、互いの射線を紙一重で逸らす。その距離、わずか10メートル。

「まるで準々決勝の焼き直しだ……!」司会の声が、興奮と緊張に震えるように響いた。


イレーネの《マリア・ゼロ・スリー》がスロットルを開き、制限高度まで一気に上昇する、追随するクラフト

《マリア・ゼロ・スリー》の紅い軌道が蒼穹に吸い込まれる。そして機首が、鋭く反転した。

次の瞬間──誘導弾が連射される。

それは、空中で分裂し、無数の光る矢と化してシルバーナを襲う。

「来る……」クラフトが低く呟き、パルスレーザーが唸りを上げる。

閃光とともに弾頭が空中で爆ぜる。直撃は許さない。だが、その回避もギリギリだった。

「見てくれて嬉しいよ」クラフトの口元に、わずかな笑みが浮かぶ。

先の戦いで自ら仕掛けた戦術を、まさかこの“演算の女王”が再現してくるとは──。

「見事な腕だ。通常兵装では互角か」イレーネの心拍数がほんのわずかに上昇する。無表情だった口元に、微かに笑みが浮かぶ。

そして、彼女は静かに呟く。

「──では、次の手を」

その瞬間、《マリア・ゼロ・スリー》からドローンが射出された。2機、さらに2機。合計4機。

「っ!? 4機? おいおい、それはありなのか……」クラフトが苦笑いを浮かべながらも、素早く指示を飛ばす。

「ナビ、クレア、回避に全振りだ。キャニスターの射出は俺がやる」

「了解!」

次の瞬間、イレーネと4機のドローンから、空を覆うほどのクラスター誘導弾が発射された。

空中で分岐したそれは、一気に十倍の数へ膨れ上がり空を覆う。

クラフトは一気に海面に向けて急降下、その後ろを数戦のクラスター誘導弾が追い詰める。

"クラフトはスロットルを最大開放。《シルバーナ》は超低空へと沈み、海面すれすれを滑るように飛行する。

イレーネの放ったクラスター誘導弾がシルバーナの後を追うように着弾し水柱を作る"

降り注ぐ光の矢を掻い潜り、クラフトは海面すれすれを疾走した。白い水柱が、轟音とともに《シルバーナ》の後を追う。その裏側で、シルバーナの船体からキャニスターが投下されていくのを、誰も、イレーネすらも気づかない。

「キャニスター投下完了!」

ナビの声が次のステージの準備ができたことを告げる。



水面すれすれを、銀灰の機体シルバーナが滑るように飛行していた。

4機のドローンが隊列を組み、波状攻撃を繰り返す。ブラスター、クラスター誘導弾、見ている者からは決着は時間の問題と思われていた。

シルバーナブリッジでは静かな戦闘が繰り広げられていた、ナビとクレアが負荷分散を行いながら、4機のドローンの弾道をクラフトの視線にオーバーレイする。クラフトはその弾道予測と上空のイレーネのブラスター砲撃の監視、回避を担当する。

反応速度は限界を超えつつあった。

わずかな“予測差”が勝敗を決めるこの状況、3人はどこか楽し気に船を奔らせる。


「……馬鹿な」

高空からその光景を見下ろしていたイレーネの口から、声が漏れた。

「一体、いくつ積んだらそんな回避ができる……?」

《マリア・ゼロ・スリー》のAIは即座に演算処理を始めていた。

──敵機、非通常の回避挙動。搭載AI数不明。

──推定処理パス:人間とAIによる手動・自動連携。

疑念と戦術思考が交錯する。

だが、即座に切り替えた。

イレーネの指先が、コントロールパネルを滑る。

「全機、密度最大まで攻撃連携を引き上げ。


──ドローンが動いた。

4機の射角が、シルバーナを中心に収束していく。

どこに逃げても、すべての行動が“包囲”されすべての攻撃がシルバーナに“収束”している。

まるで、狩猟動物に囲まれた獲物のようだ。

「……回避限界、あと40秒です」

ナビの声が伝える。

「十分さ」

クラフトの口元に、かすかな笑みが浮かぶ。


上空を旋回していた《マリア・ゼロ・スリー》が、ついに動く。

シルバーナの背後を抉るように降下してきた。

イレーネ自身が、動いた。

それが、クラフトの待っていた合図だった。

「来たか……」

声には、わずかな愉悦さえ滲んでいた。

《マリア・ゼロ・スリー》から放たれるブラスターの火線、複数の誘導弾が、低空を走るシルバーナを仕留めにかかる。

ドローン4機、そして本体の《マリア・ゼロ・スリー》までもが、シルバーナの追跡に加わった。

シルバーナはなおも走る。波打つように、海面すれすれを滑る。

そして、クラフトの視線が一点を見据えた。

そこは、潮流の流れと風向を計算して漂流させていた“キャニスター群”の中心だった。


「クレア、最後の一撃は、タイミング任せた」

「了解」


水面下。

そこには静かに、無数の“棺”が漂っていた。

中に眠るのは、数百発のクラスター誘導弾。

風と潮の力を借りて、クラフトがここまで導いた“罠”。

《マリア・ゼロ・スリー》と4機のドローンがクラフトを追跡して棺の中心に差し掛かる。

「3……2……1……」

その瞬間、クラフトは静かに息を吸い、トリガーを引いた。

「ファイア」

海面が爆ぜた。

そこから噴き上がる、光の矢の群れ。

誘導弾は数百、いや──途中で分裂し、マイクロクラスターとなって数千へと膨れ上がる。

まるで、海が空に反逆するようだった。

真下から放射状に展開された“反撃の矢”。

それは逃げ場のない網となって、イレーネとドローンたちを包囲した。

それは誰も見たことがない光景だった。


信じられなかった。

イレーネの瞳が、瞬きひとつせず、放たれた“反撃の矢”を凝視していた。

海が、牙を剥いた。

彼女の完璧な包囲網が、下方からの飽和攻撃によって一瞬で崩されたのだ。

「……っ、AI、全演算資源を回避に集中。ドローン全機──最後の弾幕で突破路を構築」

その判断は早く、恐ろしいほどに冷静だった。

即時に、ドローン4機が反応。各機が保有する残弾すべてを使用し《マリア・ゼロ・スリー》前方空域へと誘導弾を展開。

空に、炎のトンネルが形成される。

赤い光が連なり、一直線の“道”が空を割った。

その中央を、イレーネの《マリア・ゼロ・スリー》が突き進む。

攻めの一撃。

防御も回避も捨てた、狙撃にすべてを捧げるための“駆け”。

彼女は理解していた。今こそ、クラフトはこの一手に満足し、ほんの一瞬、次の手を遅らせている。

「気づいてない……」

イレーネの表情に、わずかな笑みが浮かぶ。

精密な演算照準。重なり合うデータと感覚。指先の感圧センサーが、ブラスターの引き金を受け取ろうとしていた。


クレアは静かに呟く。

「遅延起動、開始。3、2、1……ファイア」

それはクラフトが海中に投下した最後のキャニスターの機動カウントだった。


《マリア・ゼロ・スリー》の艦橋に、甲高い警報が鳴り響く。

「後方より、誘導弾急接近──!」

「なに……?」

イレーネの瞳が見開かれる。

空を駆ける彼女の背後、誘導弾が地平線の彼方から、地鳴りのような軌道で襲いかかっていた。

海流に乗せて密かに仕込まれていた“遅延型キャニスター”。

クラフトは最初から、彼女の動線と心理を読み切っていた。

「全推力で右へ回避、急速旋回!」

彼女の指示を受けて、《マリア・ゼロ・スリー》はぎりぎりの角度で躱す。

全弾回避。


「そうだよな。お前なら躱すと思ったよ」

クラフトはジャックナイフターンと同時に時差ゼロでブラスターを放つ。

その粒子弾は、最後の誘導弾を躱した《マリア・ゼロ・スリー》の機体中央を、真正面から貫いた。

AIが、自動判定を下す。

──撃墜。


「……完敗、か」

AIが静かにシャットダウンし、イレーネはそっと目を閉じた。


一拍の静寂が、会場を満たした。

そのあと、地を割るような歓声が《オロチ・アリーナ》を包み込む。

「決まったァァァッ!!決勝戦、勝者ァ!! キャプテン・クラフトッ!!」

観客席が揺れる。二万五千人の観客が、一斉に立ち上がり、空に拳を突き上げた。

誰もが、息を呑んだ。そして、爆発した。

クラフトは、ブラスターのレバーから手を離すと、そっと息を吐いた。

シルバーナの機体は、静かにホバリングしたまま、空に佇む。

まるで、戦いの意味を問うかのように。

いかがでしたでしょうか

久々のクラフトのガチバトル

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