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誰もいない宇宙船で目覚めたら最強だった件について  作者: Sora
五章 バックス星系 第21回・銀河産業技術展示会編

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063_バトルトーナメント準決勝 ~砂塵空戦~

いつもは0時過ぎの更新なのですがちょっと早めに投稿しました。

準決勝です。

こちらも文字多めですけど、決着までお付き合いいただけると幸いです

●バトルトーナメント準決勝当日 午前07:00

《シルバーナブリッジ》艦内、ブリーフィングルーム。

ホログラフが淡く空間を照らし、ナビの冷静な声が響く。

クラフトとクレアはその前で無言のまま、耳を傾けていた。

「本日、実機戦の第二試合、準決勝。対戦相手は、ダリウス・マルコフ。機体はジェットレーン・ファング。レースモデルを戦闘用に改修しているようです」

「聞いたことがない機体だな」

「経歴が異色で、小型船のレース界で活躍している現役のレーサーです。今回初出場ながら、勝ちぬいたことは操縦技術が高いことを意味しています。実戦経験はないと言っていますが、予選の情報を見ると、ドッグファイトでの接戦を得意としています。フィールドは、バックス・メイジャ砂漠地帯。中央に、幅400メートル、深さ5キロの渓谷が1000キロに渡って存在します」

「クレア、情報はあるか」

「SNS解析では、"空を競技場にする者"と評価されています」

「??よくわからないな、端的に言うと?」

「戦場をレースの延長として捉えており、ルート取りと操縦で勝てる確信しているようです」

「面白いな」

クラフトの口元に微かに笑みが浮かぶ。

ナビが静かに告げた。

「戦闘開始まで、あと3時間17分です。フィールドデータを出しますか?」

「いや」クラフトは立ち上がる。「ちょっと現地を見てから会場へ向かおう」


●バトルトーナメント準決勝当日・午前07:00 ダリウス

機体整備を終えたばかりのダリウス・マルコフは、整備班の声を背に、防音ヘッドギアを外して静かに息を吐いた。

彼の愛機ジェットレーン・ファングは、レース用にチューンされた小型高速機。戦闘向けに転用されたとはいえ、元は空を競うための獣だ。

「ふぅ……落ち着け、マルコフ」

ひとりごとのように呟く。

目の前のモニターには、今日の対戦相手、クラフトの名が点滅していた。

指先で画面を切り替え、シミュレーション映像を見る。

クラフトの過去戦績。いずれも「意図的に本気を隠している」と言わんばかりの淡々とした勝利ばかりだ。

一つ、二つ、三つ……再生を止めて彼はわずかに眉をひそめた。

「この人、ずっと“引き算”で戦ってるな」

無駄を省き、必要最低限の動きだけで勝っている。

戦場でそんな芸当ができるのは、よほどの熟練か。

ダリウスは再びシートに腰を下ろし、ヘッドセットを装着する。

ホログラフが前方に浮かび上がり、バックス・メイジャの地形データが展開された。

彼は渓谷の断面を見ながら、ひとり微笑む。


●午前10:30 《オロチ・アリーナ》準決勝当日

アリーナは、昨日をさらに超える熱狂の渦に包まれていた。

青空を模した天井演出には、美しい太陽と白い雲、巨大ドームを満たす観客席には二万五千人を超える観衆が詰めかけている。

スタジアム中央、戦闘艇の発進ゾーンがゆっくりとせり上がり、アリーナの中心に現れる。

機体はまだ姿を見せていない。だが──観客たちの興奮は、すでにピークを迎えつつあった。

突如、ステージ周囲に花火のようなホログラムが炸裂し、再び、あの司会者の声が轟く。

「Ladies and gentlemen——!!」

まるで巨大な咆哮のように、観客席から叫び声があがった。

「ようこそお越しくださいました! 銀河統一バトルトーナメント!

本日はいよいよ、準決勝戦! 勝ち上がった4人による、実機バトル・セミファイナルが幕を開けます!!」

巨大ホログラムに、8人の参加者が映し出され、そこから4人だけが金色の光で浮かび上がる。

勝者たち、準決勝進出者だ。

「昨日の激戦を勝ち抜いた、選び抜かれし猛者たち!

その中から、決勝に進めるのは……たったの2人!

誰が、誰を、どう倒すのか!? その目で、耳で、心で、焼き付けてください!!」

観客席がどよめく中、司会の声が急降下するようにトーンを下げ、低く熱を帯びる。

「まず最初のカードは……銀河西域を駆ける新星!

高速機を操る、空の猛獣“ダリウス・マルコフ”!」

カメラが舞台裏から切り替わり、発進待機中のジェットレーン・ファングを映し出す。

冷ややかな顔にサングラス、整備クルーたちの激励を受けながら、静かにヘルメットを被るその姿に、会場の熱が一段階上がる。

「予選では全戦、圧巻のドッグファイト! 戦術速度の鬼神・ダリウス・マルコフ!!」

数百の声が「ダリウス!」と叫び、応援フラッグや発光バナーが揺れる。

そして、照明が再び落ちる。

一拍、静寂が訪れた後、スクリーンがスパークを起こすように明転する。

「そして……対するは──謎多き無所属傭兵、キャプテン・クラフト!」

静かな映像。

コクピット内で座ったまま、義眼の奥でじっと前を見据えるクラフトの顔。

ほとんど動かず、無言のまま。それだけで観客の空気がピリつく。

「予選を“引き算”の戦術で突破し、準々決勝では前例なき空中機動ジャックナイフ・ターンでの撃墜!

無名から一躍、銀河中の注目を集めたダークホース、その真価が、今、試される!!」

観客の反応が割れる。

「クラフト!」という応援と、「偶然だろ!」「たまたまだ!」という野次が交錯する。

だが、そのどちらも彼の耳には届いていない。

「フィールドは、惑星〈バックス・メイジャ〉砂漠地帯!

切り立つ渓谷が舞台の、極限の地形戦!!」

上空に投影される地形ホログラム。

中央に口を開ける巨大な渓谷と、周囲の熱砂を映したそれは、まるで自然そのものが牙を剥く戦場のようだった。

「戦術か、技術か、偶然か──それとも“確信”か!?

開幕カードはこの二人!! どうぞ目撃してください、決勝へ進む者の実力を!!」

スクリーンの上部に、カウントダウンが出現。

BATTLE START IN : 60 SECONDS

観客が総立ちになり、場内のボルテージが臨界点へと突き進んでいく。

風と砂と閃光が支配する、その激突の幕が、いま開かれようとしていた。


●バックス・メイジャ砂漠地帯――クラフト vs ダリウス

照りつける光が岩盤を焼き、空気の色すら歪ませる中、ダリウス機はクラフトに背中を見せて飛び去っていく。

クラフトの義眼が、その動きを瞬時にトレースする。

逃げたように見せて、誘っている。

「キャプテン、明らかに罠です」

ナビが冷静に告げる

「……逃げる以上は、追うしかないか」

クラフトは小さく苦笑し、スロットルを吹かした。

砂漠には両機の推進音だけが響き渡る。

ダリウス機の加速が鋭い。

低空飛行、いや、地面効果を最大限に活かす軌道だ。

大気圏用の翼が、地面との距離数十メートルを保ち、空気の圧縮でリフトを得てスピードに変換している。

「……地面効果、か。やるね」

クラフトも追う。

《シルバーナ》の機体を限界まで沈め、砂塵を巻き上げるほどに地表へ接近させる。

視界の先、蛇のように揺れるダリウスの軌道。

それでも、クラフトは確実に距離を詰め、ついに背後を取った。

──その瞬間。

ダリウスが誘導弾を発射した。

その弾道は、シルバーナではなく、真下の地面へ向けられていた。


「っち……!」

大量の砂塵が爆発的に舞い上がる。

《シルバーナ》の前方視界が、一瞬にして奪われた。

その混濁の空間を突き抜けた直後、センサーが警告を鳴らす。

──真上。

ダリウス機が急上昇から旋回、今度は《シルバーナ》の真上を取っていた。

「だから言ったのです」

ナビがぼやくように言う。

誘導弾が、空から降り注ぐ。

「やるねぇ……昨日の今日で真似られるとは思わなかったよ、クレア頼む」

「ナビ、誘導弾を。私はブラスターを追う」

クレアの声の直後、クラフトの視界に次々と浮かぶ、点と線の羅列。

それはすなわち、死線。

クラフトはわずかなスラストと操舵で、その全てを紙一重で抜けていく。

背骨を軋ませるようなGが体を締めつける

爆発の衝撃波が機体を揺らし、熱風が装甲をかすめる。

だが、一発も当たらない。


観客席がどよめきに包まれる。

一瞬、何が起きたのか理解できないように静まりかえり

次の瞬間、怒涛の歓声が爆発した。


会場全体が震えた刹那、クラフトの機体はすでに次の動きに入っていた。

ダリウスは逃げ、クラフトが追う。

ダリウスはトップスピードで、切り立った岩の渓谷へと突入していった。

「渓谷内部に入るつもりか……上等だ」

クラフトも迷わず突入する。

その高度はダリウスよりも、さらに低い。

「キャプテン、これは罠」

「わかってる」

クラフトは静かに遮る。


音速を超える速度でのドッグファイト。

壁一枚、舵一度のミスが命取りとなる地形。

だが、クラフトは表情ひとつ変えず、地表10メートルを走るように飛びじりじりと距離を詰めていく。

次の瞬間、ダリウスが急制動をかけた。

高度を維持しながら速度を落とし、真下をすり抜ける《シルバーナ》を見送る形になる。

《シルバーナ》が前へ出て、ダリウスに後ろを取られた。

「クレア、着弾誘導A2」

「了解。遅延起動、カウント5」

クラフトは誘導弾を全弾発射。

「仕掛けたぞ……あとはタイミングだけだ」

ダリウスはそれらを全て回避し、再びクラフトの後方に張りつく。


渓谷内部は、幅400メートル・両側2000メートル超の絶壁。

その切れ込みの中を、2機の高速艇がほとんど触れ合う距離で突き進む。

「キャプテン、狭すぎます。速度を落とさなければ」

「ここからが本番だ」

クラフトがスラスターを微調整する。

「接触警報。機体ダメージ軽微、しかしこの距離は……!」

ナビの声も、上擦っていた。

二機は岩壁すれすれに旋回を続け、まるでスラローム競技のように左右へ蛇行。

速度は音速を超えたまま、完全に「撃ち合い」を捨てていた。

もはやこれは、機体そのものをぶつけ合う格闘戦。

「見せてやるよ……これが“空を競技場にする”ってことだ!」

ダリウスがつぶやく。

直後、彼の機体がシルバーナの機首へ体当たりを仕掛けてくる。

「っ……舵を取る気ないのか、お前は」

シルバーナの船体が激しく火花散らす。

「ここで下がれば、間に合わない」

クラフトはひとり呟き覚悟を決める。

両機が渓谷を音速で通過しながら、互いの船体を激しくぶつけ合う。

ブラスターでも誘導弾でもなく“爪と牙”で空間を奪い合う戦い。


「どうなってんだ、これ……撃ち合いじゃない……殴り合ってるぞ!」

観客席から、叫びにも似た声が漏れる。


クラフトはタイムカウントを確認しながら、スラスターを開けて、さらに加速した。

クラフトの意識が遠のく。

速度は、人間の限界を超えていた。

クレアのカウントが聞こえる

「,3,2,1」

渓谷の出口が見えたその瞬間。

シルバーナが通過した地点に上空から、雨のように誘導弾が降り注ぐ。

「何!?」

ダリウスの目が見開かれる。

センサーが危険信号を吐き出す。

彼は咄嗟に舵を切ろうとするが、遅かった。

クラフトが放った誘導弾が、ダリウスの意識の外から降り注いだ。

赤い閃光とともに、撃墜判定が下される。

コクピット内に警告灯が走る中、ダリウスは苦笑した。

「……まいったな、本物だったか」


一瞬、観客席は静まり返った。

「え……? 今のって……?」

「なんで今、誘導弾が?」

「まさか……あれって、渓谷に入るときにばら撒いたヤツ!?」


そして次の瞬間、

歓声が爆発した。

割れんばかりの拍手、熱狂、悲鳴。

誰もが、数秒前までの出来事を再生している。

伏線、仕込み、殴り合い、そのすべてが一瞬で回収された。


実況が絶叫する。

「見ましたか、今の! 誘導弾によるトラップ!

渓谷突入直後に撒いたあの一手が、最後の決め手になるとは!!

これは、まさに戦術の勝利だ!!」


スクリーンに、勝者《CAPTAIN CRAFT》の名前が刻まれる。

「戦術の妙。

そして、一切の無駄を排した一撃必殺。

準決勝、勝者:クラフト」

今回はクラフトの読みと罠のレベルがアップしてます。

次は決勝、もちろん今回以上の緊張感です。

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― 新着の感想 ―
予選登録時にはCRFTだったのが、 何時の間にやらKRAFTになっていますね。 どっちなんだろう?
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