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誰もいない宇宙船で目覚めたら最強だった件について  作者: Sora
五章 バックス星系 第21回・銀河産業技術展示会編

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062_バトルトーナメント ~バックス・メイジャ空中戦~

さあっ、いよいよ実機戦です。

ここから3回の戦闘は文字多めですけどかなり力を入れて書いたよ。

●バトルトーナメント実機戦当日 午前07:00 クラフト

《シルバーナブリッジ》艦内、ブリーフィングルーム。

ホログラフが淡く空間を照らし、ナビの冷静な声が響く。

クラフトとクレアはその前で無言のまま、耳を傾けていた。

「本日、実機戦の1試合目。フィールドは都市上空5万メートルでの戦闘です。キャプテンの初戦相手は“セリーナ・ヴォルク”。惑星連合軍の登録情報では、階級・所属ともに非公開。……ただし、旧クロノス星域の“星系軍特殊部隊”出身という未確認情報があります」

クラフトは顎に指を当て、ホロスクリーンの人物像に目を細めた。

「なるほど。クレア何か情報はあるか?」

「過去一週間の動向を追跡しています。セリーナは毎晩、単独で練習空域を巡回。戦闘空域の確認を自分の目で行っています」

「なるほど。一人で動いてるのか。ナビ、マップに風の分布を重ねてくれ」

ホログラムが再構成され、空域の風向と強さが立体的に描き出される。

「……やっぱりな。ここは偏西風が強い。空域を通じて、その流れを確認してたわけだ」

ナビが続ける。

「使用機体は、推定60メートル級の《ファルコGX改》。軍用の高速軽量機をベースにした、カスタム型の小型戦闘艇です。旋回性能と加速に特化した、ドッグファイト向けの仕様と考えられます」

「シールドなしでの近接戦にはもってこいってわけか。悪くない選択だ」

クラフトは静かに頷くと、言葉を継いだ。

「他に材料は?」

「現在のところ、それが全てです」

「了解。……整理すると、相手は旋回性能を最大化するために、風上から風下への軌道を選ぶ可能性が高い。そして、ここまで準備を重ねている以上、機体にはこのバトル特化のカスタムが入ってる。武器出力は規定だから、調整されているのはまず間違いなく、スラスター系か回避特化AIのいずれか……」

クラフトの目が鋭さを帯びる。

「……加えて、相手はこっちの旋回性能を低く見積もってる。なら──そこを突く」

彼は立ち上がり、片手でホロを払うように消した。

クレアが一歩前に出る。

「セリーナの状況を見ると今回のトーナメントには一人で参加しています。カスタムされているとしてもメーカー推奨の仕様を超えていない可能性が高いです」

クラフトの口元がわずかに緩む。

「いい情報だ。こいつは“過去の想定”に合わせて、機能の最適化をしている」

──さて、それがどこまで通用するか、試してみよう。


●実機戦当日、午前07:00 セリーナ

無音に近い空間に、端末の起動音だけが微かに響いていた。

セリーナ・ヴォルクは操縦席に座り、コクピットスーツの襟を無言で整える。

スクリーンに浮かぶのは、対戦相手「クラフト」の戦術概要。情報は少なく、名前と所属、直近の傭兵活動ログが簡素に並ぶだけだった。

「……情報不足」

セリーナはわずかに眉をひそめ、視線をスクリーン左側へ移した。

AIオペレーターが静かに補足する。

「クラフト。傭兵ギルド登録・シルバーランク。元軍籍なし。空間把握能力、反応速度は平均値を超えています。予測処理アルゴリズムとの連携が確実視されます」

セリーナの表情は変わらず冷静だ。過去の戦闘ログを読み込む。

ログには、戦術的に淡白でありながら、要所で相手の動きを先取りし撃破する傾向が記録されていた。

「タイミング型……“読む”タイプか」

「本日の模擬戦条件を再確認します」AIの声が続く。

「兵装は低出力ブラスターおよび模擬誘導弾のみ。シールド使用不可。エネルギー使用制限なし。空域はドーム上空B-3、高度制限あり」

セリーナは一瞬目を閉じ、深くゆっくりと呼吸を整える。

「了解……接近戦主体、速さと転回で押す」

数秒の静寂。

「相手はこちらの旋回を警戒し、初動で潰しにくる。……なら、こちらも初動で仕掛けるだけだ」

短く、揺るがぬ声で。

戦術論も、演説も、祈りも要らない。

必要なのは、ただ一つ「仕留める」こと。


●午前10:30 《オロチ・アリーナ》

直径3キロの巨大円形スタジアム。

観客席には2万を超える人々が詰めかけ、天井を突き抜けるような喧騒がこだましている。

中央の滑走路状のスペースに、8機の戦闘艇が順にホバリング着陸するたび、観客席からは歓声とブーイングが入り混じった爆音のように巻き起こった。

それぞれの機体は、空中スクリーンに拡大表示され、スキャン映像とともにパイロット名が紹介されていく。

そこに、炸裂音のような効果音とともに司会の男の声が響いた。

「Ladies and gentlemen——!」

その姿はホログラムとして頭上に投影され、後方には夜空を模した巨大演出スクリーンが広がっている。

「お待たせしました!ついに始まります、銀河統一バトルトーナメント実機戦!

今日ここで、最終8名から、勝ち残るのはたった4名! 栄光か、敗北か……全てが決まる一日が、今始まる!」

会場が再び揺れる。各機体のプロフィールが映像CGとしてスクリーンに流れ、観客の歓声がボルテージを上げていく。

「記念すべき第一試合、開幕を飾るのは、この2名だ!」

爆発するようなエフェクトの中、2機の戦闘艇が夜空に投影される。

スクリーンが切り替わり、それぞれのパイロットの映像が拡大表示された。

「まずはこの人!

連合軍所属、階級不明、経歴非開示!そのすべてが謎に包まれた沈黙の戦乙女!

氷の瞳の無音の刃、セリーナ・ヴォルク!」

白銀の短髪、無表情でモニターを見つめるその顔が、冷気のような緊張感を帯びて映し出される。

客席の一部からは悲鳴のような歓声が上がり、熱狂的ファンの名前コールも混ざる。

「そして、その対戦相手は……!」

ドラムロールが走り、もう一方の機体が投影される。

「傭兵ギルド所属、戦場を渡り歩く男、キャプテン・クラフト!」

「名声も階級もない無名の傭兵が、なぜか今回の注目株!」

「じわじわと予想外の勝ち上がりを見せている謎の伏兵!」

映し出されたのは、コクピット内で肘をつき、わずかに目を細めて外界を見つめるクラフトの姿。

その目がゆっくりとカメラへ向くと、観客席からざわめきが走る。

「事前の勝者予測投票では、セリーナ75%、クラフト25%。

だが、どちらが勝つかなんて、誰にもわからない!

見せてもらおう、無名が“氷の女戦士”をどう崩すか!」

会場が再び沸き立ち、興奮と緊張の波が観客席全体を包み込んでいく。

そして、上空にカウントダウンの光が灯る

模擬戦開始まで、あと60秒。


●バックス・メイジャ上空 クラフト vs セリーナ

星雲に抱かれた高空、二機の機体が静かに対峙していた。

クラフトのシルバーナと、セリーナのファルコGX改。

どちらもブラスターの照準を相手に向けているが、その銃口は今なお沈黙していた。


「残り5秒。本当に正面から行くので?」

機内に響くナビの声。

クラフトは小さく頷いた。

「正面から始めるぞ」

カウントダウンゼロ。

次の瞬間、両機が一気に加速する。重力すら置き去りにする速度で、正面から突き進んだ。

「セリーナ機、前方距離980、全速反応確認」

クレアが冷静に伝える。

真正面から撃ち合うなんて、戦術としては最悪の部類だ。

だが、それを理解した上でなお、両者は突っ込んだ。


すれ違いざま、ブラスターが火を噴いた。

火花と閃光が交差する。

「距離、10メートル」

2機は髪の毛一本分しか違わない軌道で、光の線を描いてすれ違った。

ファルコGX改の回避アルゴリズムが最短経路を選び、クラフトの義眼が射線の“次”を読み切っていた。

どちらの弾も、当たらない。

爆音だけが、空に爪痕を残す。

「ターンする」

クラフトが舵を引き、重力に逆らって機体を旋回させた。

セリーナのファルコGX改は一足先に鋭いUターンを完了していた。慣性を物ともせず、まるで水中を泳ぐような滑らかさ。

一瞬遅れて、シルバーナも船首をファルコGX改に向ける。

再び、照準が交錯する。

空に散るブラスターの軌跡が、青空に美しいラインを描く。

クラフトの眼には、義眼を通してファルコGX改の回避ルートが、幾筋もの仮想線となって浮かんでいた。

“こっちには来ない。だが、こっちには来る、風下が好みなんだろ!”

0.3秒先の未来に向けて引き金を絞る。

だがセリーナも同じだった。

最新鋭のAIが射線を読み、寸前でその線を跳ねていく。

互角。短距離の読み合いでは、決定打が生まれない。

クラフトは、急に機体の姿勢を上向けた。

急上昇――制限高度限界ギリギリの一点に向けて、クラフトはスラスターを吹かした。

「逃げるつもり?」

セリーナも後を追う。

この一瞬、勝敗が決まると直感した。

ファルコGX改が、最大推力で追いすがる。

クラフトとの距離は縮まり、照準の中心に機影が収まりかけた。

その時だった。

クラフトが、上昇を維持したまま、機首だけをセリーナに向けた。

「ジャックナイフターン……!? 上昇中に!? 重力下で!?」

セリーナがAIに処理を割こうとした瞬間、クラフトが吠えた。

「誘導弾、フルファイア!」

ミサイルベイに内蔵されたキャニスターが開き、誘導弾が雨のように放たれる。

六十発、空を埋め尽くす熱の網。

ファルコGX改のAIが自動的に緊急回避モードへと切り替わる。

逆算、旋回、スラスターの分割制御、処理限界寸前での制動。

だがその一瞬、ファルコGX改の動きは“読みやすく”なった。

「軌道、予測完了。射角、確保」

クラフトの義眼が、目の前の一筋の進路を浮かび上がらせる。

ブラスター、発射。

白い光が走り、ファルコGX改を貫いた。

撃墜判定の信号が鳴った。


会場がざわつく。

ありえない機動。重力下急上昇中のジャックナイフターンなど、常識の外。

スローモーションで再生された映像に、観客たちは歓声とブーイングを同時に放った。

「今の、何が起きた……?」

「わかるか? AIを釣ったんだよ……弾幕で」

ファルコGX改のAIが回避を優先した、その隙を突いた、まさに人間らしい戦い方。

クラフトにしかできない一撃だった。

コックピットで、クラフトは息を整える。

掌には汗がにじみ、スーツの内側で心拍がまだ乱れていた。

「ふう……あんた、強かったぜ」

バックス・メイジャの空に、銀色の機体がひとつ、大きく旋回した。


お気に召したら、ぜひぜひ評価ボタンをぽちっと(^^♪

次回はどう戦うでしょう。お楽しみに!!

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