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誰もいない宇宙船で目覚めたら最強だった件について  作者: Sora
四章 エクシオール星系ノバス王国編

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054_ナビの日常

ネコが登場すると、文字だけなのに和やかな内容になりますね

■1. 朝食 ―〈ホテル・オークノバス〉の朝にて

海のさざめきと柔らかな光が、窓辺のレースカーテンをそっと揺らしていた。

〈ホテル・オークノバス〉のスイートルーム。白を基調としたインテリアの中に、静かに響く波音と食器の軽い音が混ざり合う。

テーブルの上には、豪奢な朝食が並べられていた。地元の大型二枚貝「ノヴァシェル」のバターソテーに、焼き立てのパンケーキ。フルーツと紅茶の香りが満ちている。

「ふわふわ……しっとり……味覚フィードバック値が天井知らずにゃ……」

テーブルの端で、猫型リモートボディのナビが三枚目のホットケーキに顔を埋めていた。

尻尾をくるくる揺らし、粉糖で真っ白になった顔のまま、得意げにどや顔を浮かべる。

「……それ、三枚目だぞ」

クラフトは肩をすくめながら、紅茶をひと口すする。

「“文明との正しい接触”だにゃ。これは尊い行為にゃ」

「ナビちゃん、せめてナプキンを使ってください。カロリー制限がないとはいえ、見た目が少々……」

クレアが穏やかに微笑みながら、ナプキンを手渡した。

「了解したにゃ……」

のどかな朝だった。

爆発も銃声もない、ただの朝。

それだけで、クラフトはこの時間をありがたいと思う。

そこへ、小型端末に着信が入った。発信元は、ノバス支部のギルドだった。

『クラフト様、クレア様。先日の王女救出作戦における功績により、王国より叙勲が決定されました。式典は三日後、王宮にて執り行われる予定です。出席をご検討いただければと──』

「叙勲、ね……」

クラフトはカップを置き、海を眺めながら眉をひそめる。

名誉がつくと、面倒もついてくる。

ソレント帝国からの顧問契約も断ったばかりだというのに、今度は王国の思惑だろうか。

「そろそろ潮時かもな……」

ふと目を向けると、ナビがぴょんと椅子から飛び降りていた。

「ちょっと探検してくるにゃ」

「気をつけてね、ナビちゃん」

クレアが微笑む。

「ロビーのピアノは触るなよ」

クラフトが釘を刺すが、ナビは気にせずしっぽを揺らして部屋を出ていった。


■2. ナビの散策 ―未知との対話

ホテルの回廊は静かで広い。

ナビは四足でカーペットの上をすべるように進みながら、あちこちにセンサーを向けていた。

「室温23.5度、湿度46%、芳香散布成分は──バニラ系だにゃ。やさしい匂いにゃ……」

天井から差し込む自然光、壁に飾られた抽象画、磨かれた大理石の床。

どれもが初めて出会う「現実」であり、センサー越しでは味わえない“重さ”があった。

回廊の先、ガラスの自動扉が開くと、中庭のテラスに出た。

噴水が弧を描き、陽にきらめく。植栽の間をすり抜ける風が、ナビのひげを揺らした。

「空気が柔らかいにゃ……」

歩を進めると、奥にプールが広がっていた。

誰もいない水面が、風に小さく揺れる。ナビはそっと前足を水辺に添えた。

「ひんやり……反応値、興味深いにゃ……」

さらに、案内板の矢印に従って進むと、プライベートビーチに出た。

白い砂浜。遠くに帆船のシルエット。波が寄せては引いていく音は、電子ノイズとは違う、柔らかなリズムだった。

「この音、好きかもしれないにゃ……」

ナビは小さく座り込み、しばらく波の音を聞いた。

その後、ロビーに戻ると、弦楽器の調律をしている奏者がいた。

チェロの低音、ピアノの和音。

ナビは音の流れを追うように首を傾け、耳をピクリと動かす。

「非効率だけど……心が落ち着くにゃ。変にゃけど……不快じゃない」

しっぽを軽く揺らしながら、ナビはくるりと向きを変え、部屋へ戻る道を選んだ。


■3. 次の星系を協議する

「おかえりなさい、ナビちゃん」

クレアが玄関に立ち、やさしく微笑んで出迎えた。

ナビはしっぽを立てたままスタスタと歩き、クラフトの膝にぴょんと飛び乗る。

「冒険終了にゃ。戦果は、世界がちょっとだけ好きになったことにゃ」

「そりゃ上出来だな」

クラフトは新聞を片手に、口元だけで笑う。その向かい、クレアは紅茶を入れ直していた。

ナビは小首を傾げ、くるりと向きを変えると聞いた。

「で、今後の予定はどうするにゃ? 叙勲式が終わったら、どこへ行くにゃ?」

「その件だが──」

クラフトは手元の端末を操作し、空間スクリーンを展開する。ギルドの依頼リストが並び、各地の輸送任務や調査案件が光る。

「護衛任務は面倒だからパス。輸送系なら……お、ベルト・スリー星系への医療物資運搬。誰にも邪魔されず、報酬は……まあまあってとこか」

「静かで、危険も少なそうですね。航行時間は十日、再開拓中の辺境星です」

クレアが説明を添える。

「それも悪くないけど、もっと面白いの見つけたにゃ!」

ナビが画面の右端を前足でポンと指した。表示されたのは、イベント告知のウィンドウ。

「“第21回・銀河産業技術展示会 in バックス星系”! 年に一度しかない超ビッグイベントにゃ!」

「展示会か……パス。人が多すぎる」

「ギルド公認のバトルトーナメントも併催されるにゃ!賞金総額なんと、50億クレジット!」

クラフトの指が止まる。

その目が細められ、唇の端が、吊り上がった。

「……ほぅ?」

「キャプテン、その顔……」

「こういう展示会には、各企業が最新鋭の戦術デバイスやフライトアシストを出してくる。俺みたいな実戦パイロットが見識を広めるためにはいい機会かもな?」

「……はいはい、“たてまえ”というやつですね」

クレアはあきれ顔で溜息をつく。

「それと、ああいう舞台で腕を試すのも悪くない。最近は実戦が続いたからな、まともな試合形式での“技術確認”も必要だ」

「妙に理屈っぽい……それで、賞金のことは?」

「それは“副産物”だ。ついでにな」

クラフトの顔に笑みが浮かんだ。

その笑みは、利に聡い男の、純粋すぎる邪笑だった。

「キャプテン……! その笑顔、人に見せてはいけません! 非常に、こう……悪役めいてます!」

クレアが慌ててたしなめる。

だがクラフトは気にした様子もなく、茶をひと口すすった。

「夢を語ってるだけだぞ」

「夢というより欲望ですね……」

ナビがしっぽをゆらゆら揺らしながら続けた。

「合法ギャンブルもあるにゃ!誰が優勝するかにかけられるにゃ!合法にゃ!」

「……へぇ。ギャンブルまでセットか」

「キャプテン」

クレアは大きく息を吐いた。

「……もう。わかりました。次の目的地は“バックス星系”ですね。ですが、くれぐれも“行き過ぎた行為”は自重してください」

クラフトは笑い、クレアは呆れたまま、それでも紅茶を注いだ。

「……まあ、たまにはそういう星も悪くねぇ」

彼らの旅路は、欲と技術と祭典の地へと向かう

お読みいただきありがとうございました!

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引き続き、よろしくお願いいたします!

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