表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰もいない宇宙船で目覚めたら最強だった件について  作者: Sora
四章 エクシオール星系ノバス王国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/84

050_10分間の救出劇と微かな違和感

宇宙は沈黙していた。

絶対零度に近い闇の中、6つの人影が時速300キロで滑空する。目指すは、コロニー外縁に係留された全長1200メートルの海賊旗艦〈バロック・カラミティ〉。

マグネットブーツが船体に着地する音が、金属を伝ってわずかに響く。

「スラスター部、着地完了」

レオン・バルザード少佐の低い声に、他の五人も無言で頷いた。

クラン・セリュース少尉が腰から起爆装置付きの爆薬を取り出し、艦尾のスラスター接合部に設置していく。クレアとゼフィリウスは船体上を滑るように移動し、目的地である艦中央の非常用ハッチへ向かった。

「全員、設置完了。少佐」

クランが報告を終えると、レオンは無言で手を広げ、指を折る。

5──4──3──2──1──

2つの爆発音が同時に鳴り響いた。

艦尾のスラスターが爆炎を吹き上げ、同時に非常用ハッチが吹き飛ぶ。開口部から舞う破片をくぐり抜けて、6人は艦内へ雪崩れ込んだ。

船内は赤色灯に照らされ、まばらな照明が揺れている。クレアが即座に艦内コンソールへと有線接続。数秒でハッキングを終えると、各自の視界に艦内マップと王女の所在が共有された。

「王女は前方、司令区画のすぐ手前の隔離区画に監禁されています」

「見張りは4名。火器は標準的。対処可能」

クレアの冷静な報告が全体に共有される。

「ゼフィリウス、クレア。先頭は任せる。残りは隊列を維持して続け」

レオンが短く命じる。クラフトがその背後で軽く肩をすくめた。

「さて、先頭組のお通りだ」

ゼフィリウスとクレアが、先陣を切って走り出す。

クレアのポジトロニックブレインは、戦闘経路を秒単位で最適化し、ゼフィリウスとの距離と射角を保ちながら進行。視界に入った敵を即座にスキャンし、次の瞬間には銃口が火を吹いていた。

──バンッ。

最初の敵は、廊下の影から顔を出した瞬間に、クレアのライフルで頭部を吹き飛ばされた。

ゼフィリウスの動きも鋭い。狭い通路を滑り込みながら、膝立ちの姿勢から二人目を仕留める。

後方では、フェリクスとクランが特殊地雷を設置しつつ、慎重に追随していた。

「設置完了」

「了解、爆破!」

レオンの一言で、背後から数度の爆発音。追撃してきた海賊が、通路ごと吹き飛んだ。

「前方、30メートル。敵3名確認」

ゼフィリウスの声と同時に、クレアの照準データが同期される。

──1.2秒後、全員が床に沈んでいた。

クラフトが軽く口笛を鳴らす。

「クレア、マジで鬼だな」

進行開始から3分半。すでに海賊たちは、後方部隊を含めて十数名が戦闘不能となっていた。

「敵の配置、予想通り」

クレアの報告と共に、部隊は中層区画を抜け、船体の前方へと向かう。

進路を塞ぐ火力支援用の重装兵もいたが、ゼフィリウスが側面から牽制弾を撃ち込み、クレアがその隙を逃さず心臓部に直撃を与えた。

「これで17人目。あと少し」

クランが息を切らせながら言う。

「数える余裕があるならもっと撃て」

レオンが冷たく返す。

7分が経過したとき、チームは隔離区画の前に到達した。

「セキュリティドアを監視している2名、位置固定」

「指示を待つ」

「撃て」

次の瞬間、クレアのライフルが沈黙の中で2回震えた。

敵の頭部が、一瞬遅れて床に落ちた。

「ドアロック解除。開けます」

クレアが淡々と処理を行う。電子錠が外れ、鈍い金属音とともにドアが左右に開いた。

中には、床に座ったまま壁にもたれかかるようにして、王女がいた。

中にいたと思われる海賊はクラフト達の突入を知り、別ルートで逃げた後だった。

セシリア・リュミエール=エクシオール。

薄い拘束服に身を包み、手足には簡易の電子拘束が施されている。だが、その瞳は凛としていた。

「お迎えにあがりました」

フェリクスが一歩前に進み、跪く。

「ありがとう、でも意外だわ、聖騎士の方の迎えが来るとは思わなかった」

クランが答える。

「我々だけではありません、帝国の士官と傭兵が同行しています」

「帝国……傭兵……」

セシリアの声はかすれていたが、口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。

「敵の再配置の前に離脱するぞ」

レオンの号令とともに、チームは来た道ではなく、艦前方の非常口を通って脱出経路へ進路を切り替えた。

それは、わずか10分で完遂された閃光のような救出劇だった。

王女の救出成功の一報はコロニーへの突入を待機していた聖騎士団に瞬時に連携される。

そして、王国聖騎士団による海賊討伐が開始された。


……しかし。

クラフトは、妙な違和感を覚えていた。敵が弱すぎる。

「クレア、ギルドの戦闘データベースと照合してくれ。コロニー襲撃の規模、突入後の敵の行動パターン、この艦の装備構成──何か見落としてる気がする」

「照合開始……数値確定。転送します」

クラフトの視界に、透明なホログラフが幾重にも展開される。戦闘パターンの統計グラフ、装備リスト、エネルギー消費の推移、そして後部ドックに係留された小型艇の機体プロファイル。

「……やっぱりな」

襲撃規模の割に敵が弱すぎた。データは、コロニー襲撃がこの十年で最大規模であることを示していた。

だが、敵の戦闘時の動きは平均程度。統率も、火力も、練度も、記録された平均値と比較して大差はない。

一方で、後部カーゴに収容されている小型艇は異質だった。

装甲、エンジン出力、ステルス性能──いずれも民間・海賊用の域を超えており、軍用もしくは諜報機関の設計との一致率は65%。

そして、極めつけが母船の構成と武装。

反応弾、52発。通常搭載の11倍。

それだけで、コロニーを完全に消し飛ばす火力がある。

クラフトの瞳が細くなる。

「つまり……最初から逃げるつもりだったわけだ。王女を餌にして俺たちを引きつけ、その隙に脱出。そして、船ごとコロニー、聖騎士団、傭兵をまとめて消し飛ばす気だった」

クレアの声が静かに応じた。

「推定される海賊側の作戦成功率──実行まで気づかれなければ87.2%」

「……なるほどな」

クラフトは短く息を吐いた。

「レオン、敵は脱出を図っている。反応弾を使ってコロニーごと吹き飛ばす気だ。王女の移送は聖騎士に任せて、俺たちは後部ドックに向かう。この作戦、本当に終わらせるぞ」

しばしの沈黙のあと、レオンはわずかに目を細めた。

「最初から、それだけが目的だったと?──随分な手間をかけたものだな」

彼は二人の聖騎士に目を向ける。

「王女を頼む。最寄りのシャトルでこの艦を離脱しろ」

「了解。王女の護衛は我らが務める」


クラフト、クレア、レオン、ゼフィリウスが後部ドックへ向けて全速で走り出した。すでに艦内に海賊の姿はない。

52発の反応弾は遠隔操作での起爆に間違いない。

脱出を目論む海賊を殲滅しなければ、コロニー内にいるもの全てが死ぬことになる。

最後の決戦が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ