046_夕暮れのお茶会
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夕暮れ時、広く開け放たれた大窓からは紫がかった空と海のきらめきが見え、静かな潮騒が遠くに届く。
華やかでありながらも王宮の格式を意識した調度品が並ぶ室内に、クラフトとクレアが案内された。
「ここが、姫様のお茶会の間か」
クラフトは軽く声を漏らし、隣のクレアにささやいた。
「格式はありますけど、なんだか落ち着ける雰囲気ですね」
クレアは椅子に腰掛けながら言った。
やがて扉が静かに開き、セシリア王女が淡い薄桃色のドレスを纏い、満面の笑みで現れた。
その微笑みはどこか輝きを含み、魅惑的でありながらも何か緊張感を孕んでいた。
「お待ちしておりましたわ、クラフト様、クレア様」
「姫様、お招きありがとうございます」
クラフトは丁寧に一礼しつつも、警戒を緩めない。
「どうぞ、ご自由におくつろぎくださいませ。今日はカジュアルなお茶会ですから、形式ばらずに」
セシリアは軽やかに身を翻し、香り高い紅茶のポットをテーブルに置く。
「私たちも多忙を極める日々ですし、こんなひとときが大切だと思うのです」
「それに、クラフト様のような“立場に縛られない方”とお話できるのは、貴重な機会ですわ」
クラフトは微かに眉をひそめた。
その言葉の端々に、ただの親睦ではない何かが潜んでいるのを感じたからだ。
「“立場に縛られない”――か」
クラフトはゆっくりと言葉を選びながら返す。
「私たち傭兵は、政治的な絡みよりも仕事の結果で評価される。良くも悪くも、そういう世界です」
「まさにその通りですわ」
セシリアの瞳が鋭く光った。
「国や派閥の思惑が絡むこの星系で、信頼できる“協力者”は欠かせません」
「けれど、王族にとっては、協力者の選択は難しいのです。信用できるけど、しがらみに縛られない方が必要で――」
彼女は言葉を切り、微笑みを保ちながらも、目には切迫した何かが宿っていた。
「……クラフト様には、ぜひ我々の側でご協力いただきたいのです」
その言葉にクラフトは一瞬たじろいだが、すぐに冷静さを取り戻し、真摯に応えた。
クラフトがやや含みを持たせて答える。
「まあ、傭兵はお金次第ですからね。……だから、正直なところ、なんとも言えません」
「他に、依頼を受ける理由や動機はありますか?」
クラフトは少し言葉を探し、
「うーん……人道的理由、義理とか、まあそんなところですかね。でも結局は報酬がなければ話になりません」
セシリアはふっと息をつき、話を変えた
……セシリアが話を変えた後、和やかな話題でしばらく会話が続く。
そしてお茶会は無難に終わった。
帰りのビークルの中でクラフトはつぶやく。
「…あの姫様、食えない奴だな」
クレアが隣で微笑みながら答える。
「間違いなく、何か無理難題を押し付けようとしてますよ」
クラフトは苦笑しつつも、その先にある“協力関係”の可能性を考え、心の中で警戒を新たにした。
「政治にとらわれない立場の人間が必要だってのは理解できるが、利用されるにしても、使うにしても、油断は禁物だがな」
その目は、これから始まる複雑な駆け引きへの覚悟を宿していた。
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