042_現地ギルドで情報収集と夜は工作
日本では夏休みまでもう少し
クラフトもゆっくり休暇です
朝の陽射しが、リゾートホテルの窓から差し込んでいた。
クラフトは窓際のテーブルで朝食のプレートに手を伸ばしながら、向かいに座るクレアと話していた。
「焼き魚、うまいな。……この辺の海、養殖じゃなくて天然か?」
「はい、惑星ノバスの海は管理されてはいますが、漁業ではなく“自然保護型漁獲”に分類されています。味も、良好ですね」
クレアは涼やかな声で答え、サラダを口に運んでいる。
机の端に置かれた端末から、ナビの音声が割り込んだ。
「また私のいないところで、美味しそうなものを召し上がっているようで。楽しまれているようで何よりです。キャプテン」
「おいおい、拗ねるなよ。今日は午後からギルドに行くけど、それまでは市内を見て回る。リゾート視察だ」
「つまり、また私抜きで観光を楽しむのですね」
「うん」
「即答ですか」
クレアが口元をゆるめた。ナビの皮肉も慣れてきたが、クラフトの返しもなかなかのものである。
「ナビ、後でお土産くらい買ってきてあげますよ」
「新兵装か、機体洗浄を希望します」
「それお土産じゃないだろ」
*
市街地は、まるで夢の中のように整備されていた。
白い建物が連なる中心部は、清潔で観光客向けの店が軒を連ねている。グルメ屋台では香ばしい海鮮串が焼かれ、ショーケースにはハンドメイドのアクセサリが並んでいた。
「すごいな。観光だけで回ってるってのが信じられないくらい整ってる」
「この星には軍需工場も産業施設もありません。迎撃設備のほとんどは軌道上に配置されており、惑星表面にはほぼ介入しませんから」
クレアが淡々と補足する。人の住む星がこの惑星しかないという特殊性が、逆に完全なリゾート化を実現させたのだろう。
クラフトは露店の一角にあったメカパーツ店に目を留めた。
陳列棚には、整備用マニピュレーターやセンサー類、軽量型フレームまで並んでいる。
「……悪くないな」
「意外です。かなりの品ぞろえですね。ドクタスが近くにある影響でしょうか」
クラフトは店内を一通り見て回り、最後に小型駆動ユニットと浮遊安定モジュールを手に取った。
「そういやナビ、最近ちょっと拗ね気味だな」
「そうですね。最近は観察データの不足を訴えていました。休暇中は実体で動けないので、外界の感覚データが少ないのが理由でしょう」
「なるほど。作ってやるか、ナビ専用の端末。感覚入力できるやつを」
「どのような形に?」
クラフトは少し考え、笑った。
「人型は手間がかかる。浮くボール型とか、動物型にして、リゾートでも目立たず遊べるやつ。小さければホテルに泊まるときも料金取られないだろうし」
「ボール、動物。……可愛らしいのが良いですね。私は猫型が良いと思います。視覚センサーを瞳に擬態させれば、一般人にも違和感は与えないでしょう。ボール型だと食事機能を付けるのが微妙だと思われます。」
「あとでナビに相談してから作るか」
「それは……必要でしょうか?」
「まあ、そうだな、いきなり見せて驚かしてやろう。猫型にして、どう見ても“本物”にしか見えないやつにしよう」
クレアがわずかに微笑んだ。「艦長の職人魂、発動ですね」
*
午後、クラフトは惑星ノバスのギルド支部を訪れた。
内装は木目調で落ち着いた雰囲気。観光地らしさの中に、確かな実務性がある。
カウンターで名乗ると、すぐに案内係が現れた。
「クラフト様ですね。こちらへ、どうぞ。別室をご用意しております」
「別室?」
案内された部屋は応接室のような空間で、情報担当官らしき男が一人待っていた。
「シルバーナの艦長、ようこそ。ドアーズ星系での活躍、こちらにも報告が届いています」
「そんな大したことした覚えはないが」
「いえ、ワームの掃討作戦だけでも相当な評価が加算されております。加えて、ドクタス方面の企業連合──特にシップワークスのミオ・デグラント氏から強力な推薦が届いておりまして」
「……あの人、そんな根回しまでしてたのか」
「その結果、あと少しでゴールドランク昇格です。現在、この星系には高ランクの傭兵が少ないため、シルバーナのような艦は極めて貴重です」
「この星系での依頼内容は確認した。たしかに今までの星系より依頼は少なかったな」
「量は少ないですが、報酬は通常より高く設定されています。星系の境界での護衛や討伐、いずれも短期案件が主です」
クラフトは短く考え、軽く頷いた。
「時間があるときに少し考えてみるよ。今は休暇中でね」
「ありがとうございます。ご期待しております」
*
夜。ホテルの一室にて。
クラフトはタブレットに向かい、猫型の3Dモデリングを進めていた。
「耳はセンサー一体型にして……目は、光量に応じて瞳孔が動くように。しっぽの動きが重要だな」
彼の目は真剣そのものだった。
その様子をクレアはソファに座って静かに見守っていたが、やがて口を開いた。
「クラフト様。そろそろ就寝時間では?」
「もう少し。ここの関節ユニットが納得いかない」
「“こだわるぞ”とは仰っていましたが、まさかここまでとは」
クラフトは笑った。
「こういうの、嫌いじゃないんだ。誰かのために何かを作るのは、戦うのと違っていい」
「ええ。良いと思います」
設計データはすでにシルバーナの工作室へ転送済み。明日には外装の大半が完成しているはずだ。
作業に没頭するクラフトの横で、クレアはわずかに頬をふくらませながら言った。
「ナビのためにこれほど尽くして……少し、妬けます」
「お前にも作ってやろうか? 猫耳つきの第二ボディとか」
「丁重にお断りします」
部屋の中に、静かな笑い声が広がった。
波の音はここまで届かないが、心地よい熱と安らぎがそこにはあった。
猫型のデバイス
自分でも欲しいです




