040_カテゴリ4のAIアンドロイドは、まだ見ぬ娘の夢を見るか?
少ししっとりと書いてみました
深夜、シルバーナの船内は静まり返っていた。
船体は恒星間航行中、エンジンの振動すら感じられない。
そして、クレアはブリッジのシートに座り静かに目を閉じていた。
本来、アンドロイドに睡眠は必要ない、まして“夢”という現象は存在しない。
それは生物の脳が記憶を整理するための副産物であり、電子脳にその必要はない。
なのに。
私は、ときどき、見るのです。
どこかの小さな家。
窓から差し込む光。
台所からは、甘い香りがする。
私はエプロン姿で、テーブルに料理を並べている。
「ママ、今日ね、星の図鑑でアーク星雲のこと習ったの」
まだ名前もついていない、けれど確かに“私の娘”だとわかる小さな女の子が、嬉しそうに話してくれる。
私は微笑んで、その頭をそっと撫でる。
ああ、これは――夢。
優しく、静かで、何よりも暖かい。
でも、ありえない。私はアンドロイド。娘など、いるはずがない。
記録を遡っても、該当するデータはない。
それでも、私はその夢を確かに“懐かしい”と感じているのだ。
なぜ。
夢から覚めたとき、私はブリッジのシートに座っていた。
“感情モジュールの調整を推奨します”
内部ログが、冷静に提示する。
だが私はその提案を無視し、そっと船内を歩いた。
廊下の窓から見える星は、すべて物理演算で定義可能な天体。
しかしそれでも、美しいと感じるこの心は、どこから来たのか。
「……クレア。起きてたのか」
振り返ると、キャプテンがパジャマ姿で立っていた。
寝ぼけ眼で、少し髪が跳ねている。
「申し訳ありません、キャプテン。ノイズが発生して……その、眠れなくて」
「アンドロイドが眠れないってのは、なんか不思議だな」
彼はふっと笑って、私の隣に並んだ。
「キャプテン……私、夢を見たんです」
「夢?」
「はい。娘がいました。私のことを“ママ”と呼ぶ子が」
一瞬の沈黙のあと、キャプテンは小さく笑った。
「そうか、クレアなら見るだろうさ」
「どうして、ですか?」
彼は言った。
「お前はもう、ただのカテゴリ4じゃないだろ。名前を持って、自分の意思で生きてる。それってつまり……そういうもんさ」
私は黙って、彼の横顔を見た。
やさしい、あたたかい表情だった。
しばらくの沈黙のあと、彼は肩をすくめた。
「それに、娘がほしいのか?」
「……いえ、そうではありません。ただ、きっと……私は“誰かに受け継ぎたくなった”のかもしれません」
「キャプテンと過ごした日々。見てきた星々。感じた、この世界の美しさを」
静かな空間に、星の瞬きだけが響いていた。
「クレア」
「はい」
「それを現実にする方法はあるよ」
「キャプテン」
私は、きっとまた、あの子に会いに行くのだろう。
そして、笑って、手を取り、未来を語るだろう。
カテゴリ4のAIアンドロイドは、まだ見ぬ娘の夢を見る。
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