036_集中訓練(後半戦)
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1日の短い休暇が終わり、再び15名の訓練生が訓練センターに集まった。
シミュレーションホールの中心に立つレイモンドの号令が響く。
「整列!」
その声に、一瞬で場の空気が引き締まる。
クラフトが前に進み出て、3チームに分かれたパイロットたちを見渡した。
「今日から後半戦に入る。ここから先は、実戦を想定した護衛任務シミュレーションだ」
ホロスクリーンに3つのチーム構成が表示される。ノア、リーニャ、カデルを中心とした各チームは、現場での実配属を想定した陣容だ。
「基本は変わらん。“護衛の完遂”が最優先。敵の殲滅は状況が許す場合のみ行え。無理に撃ち合うな」
クレアが落ち着いた声で続ける。
「シミュレーションは2時間単位で実施され、20分の休憩を挟みます。このサイクルを1日8回繰り返します。集中力と判断力の持続が問われます」
●10日目:混乱
初日のシミュレーションは混乱の連続だった。
各チームとも、敵が6機程度までなら冷静に対処できるが、それ以上になると連携が崩れ、瓦解する場面が増える。
「単機で突っ込むな!」
「連携を取れ、味方の位置を確認しろ!」
クラフトの叱責が飛ぶ。
クレアはログから隊形の変化と各機の動作を解析し、無線でチームごとに助言を送った。
チーム1(ノア中心):防御重視だが、連携が堅すぎて反応が鈍る。
航路変更に気づかず、数秒遅れて対応し、護衛対象を喪失。
「理論上、この動線が最短なんです!」
「戦場で理論が通じるのは、1秒以内に動けた奴だけだ!」
チーム2(リーニャ中心):機動力はあるが突出傾向。
リーニャが敵を追って離脱し、護衛対象が孤立・撃破。
「わたしが3機も落としたのに、なんで負けるのよ!」
「お前の得点じゃねえ、護衛対象が生き残るかどうかだ!」
チーム3(カデル中心):敵撃滅志向が強く、護衛を忘れがち。
カデルが単機突入→撃沈→再出撃間に合わず、護衛対象が孤立。
「畜生……ちょっとやりすぎたか」
●クレアの分析
訓練終了後、クレアがモニターに各チームの結果を表示した。
「護衛成功率、撃滅成功率、平均陣形維持時間、連携反応時間……現在、護衛成功率は平均65%。敵が2倍以上に増えると50%を切ります」
クラフトが腕を組んで言う。
「まあ、上出来だ。護衛の実戦はめったに起きない……が、起きたときに対応できなければ意味がない。これからはこの数値をどう上げるかだ」
●11〜17日目:成長
各チームが戦術方針を固め始める。
チーム1:防衛に特化し、堅実な後衛戦術を確立。
チーム2:リーニャの反応速度を迎撃戦術に転用し、機動防衛型へ。
チーム3:カデルが囮を担い、他の2機が護衛に集中する分担型へ。
クラフトとクレアは交代で各チームに帯同し、リアルタイムで戦術を修正。
クラフト:「カデル、突っ込むなら戻るルートを意識しろ」
クレア:「ノアさん、視界共有のタイミングがやや遅れています。もっと積極的に要求してください」
クラフト:「リーニャ、反応はいいが、隊列の崩れを招くなら再考しろ」
成長が最も顕著だったのはノアだった。
ある場面で、隊形が乱れかけた瞬間に僚機へ支援を指示、自らが盾となって再構築。
「ノア、よくやった。ああいう判断は理論にはないが、実戦では最高の選択だ」
リーニャも突出癖を抑え、隊列を意識した判断が増えた。
カデルは囮フェイントを成功させ、僚機に撃破のチャンスを作る。
●18日目:到達点
クレアがモニターを指し示す。
「最新データです。敵が2倍以内であれば、護衛成功率は平均98%。明らかな進歩です」
訓練生たちの顔に、手応えある達成感が広がる。
クラフトが前に立つ。
「よくやった。ただし、敵が3倍、4倍となれば話は変わる。知性のない生き物相手でも、数は脅威だ。数を覆すには、技術と連携……この二つだ」
●19日目:作戦前倒し
翌朝、訓練前のシミュレーションホールに、ミオが現れる。表情には緊張がにじむ。
「レイモンド、キャプテンクラフト、少し話がある」
個室でミオは端末を机に置いた。
「作戦が前倒しになった。ワームの活動に異常が出ている。いくつかの航路で実害が出た」
クラフトの表情が険しくなる。
「どれほど前倒しか」
「10日分。訓練は今日で打ち切る。報酬は予定通り支払う。引き続き、討伐任務に参加してくれ」
その日の午後、レイモンドは15名を前に告げた。
「予定が変わった。訓練は今日で終わりだ。ワーム討伐が前倒しとなった。30分後、ミーティングルームに集合。遅れるな、以上!」
「了解!」
一斉に声が揃う。
●19日目 ブリーフィング
15名が集まり、巨大モニターに戦術ブリーフィングが表示される。
参加者は400名以上。艦隊、ドローン部隊、外周防衛の構成が映し出される。
「今回の指揮はコースタル・イージス中将が執る」
精悍な顔つきの男が画面に現れ、簡潔に作戦を説明する。
「目標は巨大化したワーム33体。知性はないが、反応は鋭く、突進力が高い」
「囮艦を50隻配置し、航路に流す。反応したワームに対して包囲殲滅。おとり艦の監視を怠るな。攻撃・撤退の判断は現場の責任者に委ねるが、本部の指令には必ず従え。繰り返す、本部の指令には必ず従え。以上だ」
合同でのブリーフィングに続けて、レイモンドがチーム編成を伝える
「チーム構成は訓練時と同じだ」
「今回の敵は、話し合いも、取引も、情けも通じない。ただ、食うために動いている。撃ち漏らせば、次に食われるのは民間人だ。それを忘れるな。作戦開始は明朝8時、殲滅用装備にてドック集合。以上、解散」
緊張が走る中、クラフトは静かに考えていた。
「33匹……数は把握できている。だが、異変があったってことは、これで終わる保証はない。今のうちに叩き切らないと、後がきつくなるな」
宇宙の静寂の裏で、確実に何かが蠢き始めていた.
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