031 陰謀
ミオ氏が自身の端末をハブとして、シルバーナと自社のネットワークを繋いだ。
「ナビ、採用半年以内の社員の行動ログを洗え。標準モデルを構築、異常値を抽出。急げ」
『了解、プロファイル検索、モデル構築完了。検索、行動の異常値を検出』
ナビの声が船内に響く。画面にはログが羅列され、赤い警告が一つ浮かんでいた。
『通信部所属の新規採用者、識別コードHK-9Z1。ゲイトのメンテナンス記録と従業員リストへ通常と異なる頻度でアクセスしています』
「どのゲイトだ?」
『通常の星図には表示されていないものです。座標は記載がありません』
クラフトがミオ氏に確認する
「これは、ダイリチウム採掘惑星の専用ゲイトだ」
クラフトの瞳が鋭くなる。
「ダイリチウムか。何かと縁があるな。ナビ、推論を続けてくれ」
『ゲイトを使用するには正確な座標が必要です。それを知るのは、採掘地へ資源を運ぶ宇宙船のパイロットのみ。犯人はその座標を得るため、該当するパイロットを特定しようとしている可能性が高いです』
クレアが低く息を呑む。
『目的は拉致。座標を聞き出し、偽装した輸送船団でゲイトを通過。鉱山を奇襲、即座にゲイトを破壊すれば外部との連絡も遮断され、反撃の時間はない』
「ゲイトを破壊した後、ダイリチウムの運搬は時間がかかるが、やつらは時間をかけてでも持ち帰る覚悟があるということか」
『該当するゲイトは8つ。うち5つは未稼働。3つは現在稼働中で、稼働中の3つの鉱山にはそれぞれ約3000人の作業員が常駐しています』
「誰も知らぬまま占拠されれば、全員が人質になる」
クラフトの声が低く沈んだ。
「犯人は今も社内にいるか?」
『昨日退勤以降、社内での記録なし。本日出社記録もありません。無断欠勤と推定されます』
「動いたな。犯人が見ていたパイロットで惑星上にいるものは何人いる?」
『一名のみです。本日、パイロットのひとりが帰還。港には一時間前に到着済み。現在、自宅へ向かって移動中と推測されます』
クラフトとクレアは顔を見合わせた。
「まずい。やつらが先に接触すれば終わりだ。ナビ、位置を追い続けろ。ミオさんは該当の社員へコンタクトして身の危険を伝えてくれ。我々が保護する」
『了解。社内ネットワーク情報からリアルタイムの位置情報を確認。クラフトの目に転送します』
クラフトとクレアはエアバイクに跨がり、都市の空を飛び抜けていった。
夜の住宅街。街灯の青白い光がコンクリートの壁に長い影を落とす。
『パイロット、自宅に到着。ミオ氏からの通信には応答しません。玄関に入った模様』
クラフトがパイロット自宅のあるビルまであと数分、ナビの声が緊迫する。
『警告。建物の内部センサーが不規則な動きを感知。複数の人物が接近、室内侵入を確認。パイロット、襲撃されています』
「このまま突入する!」
クラフトとクレアが窓を砕き、バイクごと飛び込む。
中には5人の賊。フルフェイスのヘルメットと軍用スーツに身を包み、即席の拘束器具を手にしていた。床にはパイロットが倒れ、額から血を流している。
クラフトが瞬時に銃を抜き、最前列の1人の首を撃ち抜いた。
吹き出した血が壁に飛び、背後の男が反射的に反撃する。
しかし、クラフトはすでに動いていた。
回転しながら相手の懐に入り込み、肘で喉元を砕く
。男は呻き声すら上げられず、その場に崩れ落ちた。
その隙に、後方の男がナイフを抜いて突進してきた。
クレアのハンドブラスターが火を噴き、至近距離で賊の胸を撃ち抜く。
炸裂するような光とともに、男の体が跳ね上がり、壁に叩きつけられて沈黙する。
もう1人が振り向きざま、金属バトンを振り上げたが、クレアはすでに体勢を切り替えていた。
「遅い」
彼女の右脚がしなやかな弧を描き、男の顎を鋭く打ち抜く。骨が軋み、男の頭が不自然な角度でのけ反ったまま、動かなくなる。
残る1人が手榴弾に手をかけた。
「動くな」
その瞬間には、クラフトの銃口が男の額に押し当てられていた。
『応援部隊が現場に到着。ミオ氏の古参セキュリティ兵に引き渡します』
『了解。パイロットの容体は安定。即時搬送を行います』
クラフトは深く息を吐き、銃を下ろした。クレアの肩には細い切り傷が走っていたが、彼女は気にも留めず、ただ頷いた。
「片付いたな」
数日後、ミオ氏がクラフトの元を訪れた。彼の表情には安堵と、微かな怒りが滲んでいた。
「有人の鉱山はすべて無事だった。つまり、ダイリチウムを採掘している三箇所の惑星には、一切被害がなかったということだ」
クラフトは黙って聞いていた。
「だが、無人の鉱山のゲイトが1カ所破壊された。もしあれが稼働後であれば、数千人が閉じ込められるところだった。やつら、本気で奪うつもりだったんだな」
「その鉱山の座標の流出経路は?」
「4日前だ、パイロットは自宅で死亡しているのが見つかった」
「そうか、残念だ」
クラフトは短く息を吐いた。
「一人は助けられなかったか」
名前も知らぬ誰かだが、間違いなく守るべき人だった。
「ああ、しかしお前たちが止めなければ、3000人以上が消えていた、犠牲は最小限ですんだ。礼をいう」
クラフトはその言葉には応えなかった。
敵は未稼働の鉱山を奪取した。
それは、自分たちで採掘を出来る能力を有する者が背後にいることを意味する。
犯人の背後関係はこれから捜査と聞いたが、おそらく何もわからず終わるのだろう。




