027 監視者の影
日間ランキングに載ったようで見ていただける機会が増えたようです(^^♪
ありがとうございます!
朝、クラフトはやわらかな陽光の中で目を覚ました。静かな屋敷の一室。寝具は上質で、包まれていた暖かさが心地よい余韻を残していた。軽く伸びをしたとき、扉の向こうからノックの音が響く。
「クラフト様、朝食の準備が整っております」
メイドの声は穏やかだった。アンドロイド?扉を開けた彼女は白い制服に身を包み、金髪を後ろで束ねた端正な顔立ちで一礼した。その姿を見た瞬間、クラフトはほんのわずか、目を奪われた。
「……こんな生活もありだな」
小さく呟いたその言葉を、背後からすかさず拾った声があった。
「キャプテン、あのようなモデルが好みですか?」
クレアがこちらを見ている。
「いえ、純粋な技術的興味で」
「そういう“技術”が好みだったとは」
さらりと返しながら、彼女は先に食堂へと歩いていった。
食卓には、すでに何人かが着席していた。ミオ=デグラント、ドクタス・シップワークスのオーナーであり、惑星ドクタスへ向かう途中、クラフトに助けられた男。48歳とは思えぬ若々しさと、包容力のある眼差しが印象的だ。
「おはよう、クラフトさん。昨夜はゆっくり眠れたかい?」
「ええ、快適でした」
ミオの隣には、第一夫人のセイラ=デグラントがいた。落ち着いた雰囲気の女性で、見るからに理知的。セイラママと呼ばれるのも納得だ。
「朝食をご一緒できて嬉しいです、クラフトさん。どうぞ召し上がって」
セイラの子供たち、カイ(17歳)とエナ(15歳)も同席していた。カイはしっかりとした姿勢で、父の後を継ぐ者としての気概が感じられる。エナはクラフトを見ると、顔を赤らめながらも、ちらちらと視線を向けてくる。
反対側には、第二夫人のルミナ=デグラント。明るく華やかで、周囲を和ませるような笑顔を絶やさない。6歳のユイは彼女の膝の上でパンをかじっている。
朝食後、庭園でお茶を飲みながら、ミオと向かい合った。
「本日午後に、本社から技術者が到着する。改修の方針を伝えて、見積もりを出してもらう予定だ。船内の視察も行うから、よろしく頼む」
「了解しました」
「その前に、護衛の報酬を正式に支払いたい」
ミオは端末を取り出し、クラフトの前に差し出す。クラフトがサインを完了すると、完了音が鳴った。
「それと……よければ、もう少しここに滞在してほしい。子供たちも君を気に入ったようだ」
ちょうどその時、カイがまっすぐクラフトのもとに歩み寄り、手を差し出した。
「あなたのような戦士に会えて光栄です。いつか、自分もあのように戦えるようになりたい」
いやっただの傭兵なのだけど・・・と思いつつ気の利いた言葉も思いつかず
クラフトはしっかりとカイの手を握った。
エナが恥ずかしそうに遠くからクラフトを見ている。
午後、シルバーナにて技術者が到着。クラフトとクレアは船内を案内しながら、ミオへ方針を伝える。
外装の清掃と損傷部位の処理
不要物の廃棄
誘導弾システムの搭載
カーゴスペースの拡張
他に追加できる装備の提案も歓迎
「構造設計資料をいただけますか?」
「ナビ、データ送信を」
『了解』
しばらく見積もりに時間がかかるということで、クラフトはクレアと共にギルドを訪れることにした。
「バイクにでも乗るか?」
「ええ。こういう星の空気、肌で感じておきたいです」
エアバイクで風を切り、都市部のギルドへ向かう。受付で名を告げると、すぐに奥へと案内された。
「この度は、ミオ様を助けていただきありがとうございました」
やはりミオは一目置かれる重要人物のようだ。
クラフトは、星域における海賊の活動について情報を得る。惑星周辺ではなく、外宇宙を狙う襲撃が主流であるという。船を持たずとも可能な依頼も存在するが、報酬は低めであり、魅力には乏しい。
「船の改修が終わったら、また来よう」
帰り道、エアバイクの上でクレアが口を開く。
「キャプテン、あのアンドロイド、やっぱり気になってるんですね」
「……突然なんだ?」
「朝の視線。あれはどう見ても“技術的興味”以上でしたよ」
「からかってるだろ」
「いいえ、でも、ああいうのが好みなんですか?」
クラフトは苦笑しただけだった。
なんでアンドロイドの時だけ突っ込んでくるんだよと思いつつ。
屋敷に戻ると、ナビから連絡が入った。
『屋敷の外部に、監視行動が認められます。映像を送ります』
映像には、高高度から監視する無人偵察機の姿が映っていた。
誰かが、彼らを見張っている。
夕食後、クラフトがテラスでコーヒーを飲んでいると、ミオが現れた。
「気に入ってもらえたかい、この屋敷」
「ええ。静かで、落ち着く場所です」
「ですが、落ち着かない話もあるようですね」
「監視者がいます。屋敷の外から」
ミオの顔が険しくなる。
「そうか。思い当たる節はある。あの襲撃も、おそらく偶然じゃない」
その時、足音もなく現れたクレアが、クラフトの隣に腰を下ろした。
「……また見てましたね。今日の夕食の配膳のときも」
「見てたって、何を?」
「例のメイドアンドロイド。やっぱり好きなんですね、ああいう感じ」
夜風が静かに吹き抜け、クラフトはその言葉に返すことなく、目を閉じた。
どうしよう。
そして、何かが動き出そうとしている気配を感じていた。
そっちも、どうしよう。
クラフトは自覚している。練習したことはできるけど、初めての経験には弱いことを。
クラフトはどこへ行ってもトラブルに巻き込まれます。
でも優秀だから大丈夫?




