023 ドアーズ星系への旅支度
次なる星系へ。
目指すは「整備とグルメと温泉」のドアーズ星系。
ちょっと一息、小休止が多い気もするけど旅は急ぐものではないよね。
シルバーナ号のカフェテリアで、クラフトがフォークをくるくると回しながら口を開いた。
「次はソレント帝国と反対側の星系に行こうと思うけど、どう思う?」
カトラリの音が静かに響くテーブルには、まだ温かいパスタの残りがあり、向かいにクレア、壁面スクリーンにはナビのアイコンが浮かんでいる。
「特に止める理由はありません」とナビが即答した。
「ですが、推奨する理由もありませんね」と、あっさり続ける。
「そりゃまあ、そうだけどさ。そんな言い方しなくてもいいだろ。一緒に候補を考えようぜ」
クラフトの言葉に、ナビのウィンドウが一度だけ明滅した。
「方向から考えると、次の星系候補は5つほど存在します。距離、交通状況、資源の有無、コロニーの治安など、選定基準は多岐に渡ります」
「何を基準に目的地を選ぶかが問題です。メタ王国に来たのは偶然でしたが、これからは自身の判断で選ばなければ」
「出たな、ナビの説教モード」
クラフトが苦笑すると、クレアが控えめに手を口元に添えて笑った。
「まず、当面の行動指針などを定めてみてはどうでしょう?」
クレアが優しく助け舟を出すと、ナビが即座に反応してホロ画面にリストを表示した。
◆現在のクラフトの行動方針
・海賊をしばいてお金を稼ぐ
・船の清掃と改修をしたがっているが実行していない
・たまに休暇で、おいしいものを食べている(※ナビは留守番)
「んー、まあたしかに」
「やはり無計画です」
「ひどっ」
ナビの辛辣なコメントに、クラフトが肩をすくめる。
そんな中、クレアが珍しくあいまいな言葉でフォローした。
「まあ、いいじゃないですか。先は長いのですし……」
その声は、いつもよりほんの少しだけ柔らかかった。
「ナビ、この3つを同時に満たせる星系は? 一番近いところで」
「ドアーズ星系です」とナビが即答する。
「海賊の出没頻度は場所により差異はありますが、基本的にはどこにでも現れます。休暇と食文化も同様です。ただし、私は立入制限のため同行できませんので、その項目の優先度は下がります。船の改修が可能な施設は限られますので、そちらの優先度は高くなります」
「ドアーズ星系にはレンタルできる造船ドックや大手の造船所も多数あり、船のメンテナンスには最適です」
「なるほど。確かに整備状態は最適とは言えませんね。ナビも船がきれいになるのは賛成のようですし」
クレアがうなずく。
「異論はありません。では、船の改修を進め、その間に私のいないところで休暇を取り、おいしいものを食べる。これでよろしいですか?」
「やっぱり、ナビも温泉入りたかったんだな」
クラフトがぼそりと呟くと、クレアがやんわりとうなずいた。
「そうすねるなって。まあ、優先は船の改修だな」
ナビがホロ画面に項目を表示した。
◆船の改修項目
①船体の洗浄
長期間の航行と戦闘任務で外装に煤や微細デブリが付着し、視認性とセンサー精度が低下している。また、移民船時代から積み込まれた荷物や不要物も船内に残存しており、整理整頓と衛生環境の維持が急務。
②誘導弾の装備
設計段階では補給体制が不明だったため、シルバーナ号の実弾兵装は戦艦クラスにも対応可能な反応弾のみを搭載。現在はギルドの支援により補給が可能であり、複数目標への対応力を強化するため誘導弾を追加する。
③カーゴスペースの拡張
海賊撃破後の収奪品を保管するスペースが限られており、討伐報酬以外の利益を取りこぼしている。カーゴ容量を拡張することで戦闘成果の収支効率が大幅に改善される見込み。
「うん、どれも納得のいく内容だな。ドアーズ星系で整備して、そのついでに温泉と地元グルメって流れで行くか」
「了解です。ドアーズ星系までの航路を最短かつ安全優先で計算中」
「よし、じゃあ決まりだな。次はドアーズ星系、整備とグルメの旅ってことで」
「明日の午後には出発しよう。クレア、スターゲートの利用申請を頼む」
「承知しました」
クラフトはふと窓の外に目をやり、小さく息を吐いた。
「せっかくだから、この目で今の平和な街を見ておきたい。……ちょっと出てくるよ」
「行ってらっしゃいませ」
クレアの柔らかな声を背に、クラフトは一人、タラップを降りた。
男はたまには一人でうろつきたくなるものです。




