022 ギルドからの呼び出しそしてランクアップ
クラフトの帰還報告もしないとですね。
交易コロニーに戻ってきたクラフトは、港湾宙域で入港許可を待つ間、船内のソファに身を沈めていた。
傍らではクレアが、手にした端末をいじりながら言う。
「ギルドから連絡が来ています。キャプテンの帰還に合わせて、“一度顔を出してほしい”とのことです」
「早いな」
「高評価だったのではないでしょうか? あれだけ派手にやれば、黙ってる方が不自然です」
クラフトは薄く笑って、腰を上げる。
「じゃあ、ちょっと行ってくる。クレアも少し休んでおけ」
「ご心配ありがとうございます。ですが――」
「“私の定位置はキャプテンの横です”だろ?」
「はい、よくご理解いただいていて光栄です」
言いながらクレアも立ち上がった。
シルバーナが港に静かに止まり、タラップが接舷された。
「ナビ、ちょっと出てくるよ」
クラフトとクレアは並んでギルドに向かった。
ギルドオフィスの建物は港区の中央にあり、巨大なスクリーンに戦果データや契約更新の案内が映されていた。
受付を通されると、上階の応接室で、二人の職員がクラフトを迎えた。一人は壮年の男で、もう一人は整った顔立ちの女性だった。
「ようこそ戻られました、キャプテンクラフト」
まず口を開いたのは男だった。肩に小さなバッジをつけている。ギルド評価官――つまり査定担当者だ。
「ご苦労だったな。今回の戦果、正式な報告書として確認させてもらった。小型艦7隻、海賊の旗艦1隻の撃破、見事な成果だ」
クラフトは軽く頭を下げた。
「偶然、条件が揃っただけです。艦の性能や支援体制もあっての結果ですよ」
「それを謙遜と言うのだろうな。だが、ギルドとしては正当に評価させてもらう。今回の功績により、クラフト氏を《ブロンズ》から《シルバー》に昇格とすることが本日決定された。おめでとう」
「ありがとうございます」
言葉だけは形式通りに返したが、心の底ではあまり感情が動かなかった。シルバーに上がれば報酬の単価が良くなり、案件の選択肢も広がる。
だが、それが主目的ではないし。
「引き続き、この《メタ王国》宙域内での活動をお願いしたい。現地適応性、協調性、すべて良好と判断されている」
「このあたりの海賊勢力は、今回でかなり根を絶たれたでしょう。となれば、次は別の星系を回るつもりです」
女職員はこちらの回答を分かっていた様子だった。
「そうですか」
「クラフトさん。今回提出されたデータ、特に敵艦の機体構造や、索敵アルゴリズムの解析情報。あれは相当な価値があります。通常の傭兵が収集できるようなものではない」
クラフトは少しだけ視線を逸らした。
「たまたま、相手が派手な奴らだっただけです。高性能なセンサーを使っていれば、データはそれなりに拾えます。それに分析したのはうちのナビとクレアです」
「ふむ……なるほど。ならば、参考までにお聞きしたい。“あの赤い航跡を残す艦”異様な加速性能、ブラスターを回避する操船技術、あなたの目に、どう映ったか」
沈黙が落ちた。クレアが静かに立ち、クラフトの横に寄った。
「強い。戦い慣れてる。それだけじゃない。あれは“限界まで鍛えこまれた”プロの動きだった。ただの海賊ではないだろう」
男職員が腕を組む。
「そうか」
女職員が書類に何かメモをとりながら尋ねた。
「ちなみに、次はどの星系へ?」
「帝国と反対側へ行くよ。ちょっと静かなとこが恋しくなった」
「それは、⋯⋯いや何でもない」
ギルドの職員は何か言いかけて、口にするのを止めた
「本日はありがとうございました。次の星系に行かれた際には是非現地のギルドへお寄りください。必要な情報を入手できます。今後とも、よろしくお願いします」
オフィスを出たクラフトは、そのままクレアと並んでエレベーターを降りる。
人の流れが交錯するロビーを抜けたところで、クレアがふと呟いた。
「帝国と反対側。やっぱり、それは“避けてる”んですか?」
「違うな。今はまだ、会う気になれないだけだ。次は、もう少し、準備ができてからだな」
「準備、ですか。キャプテン、私はいつでもお供しますよ」
「わかってる。だから、次はもうちょいだけ、静かな仕事を選ぶさ」
二人は並んで歩きながら、コロニーの柔らかな人工光の下へと消えていった。
次はどこに行こうか。




