021 レオンの帰還報告
帝国は堅苦しいのです
ソレント帝国・本星圏 親衛艦艦内
「――以上が、今回の潜入任務の全容になります」
レオン・バルザード少佐は、直立不動の姿勢を崩さぬまま、簡潔かつ要点を押さえた口調で報告を締めくくった。
眼前のホロスクリーンには、帝国情報本部の幹部たちが映し出されている。威圧感のある軍服姿の男たちが並び、いずれも機械強化を施された冷徹な眼差しを向けていた。
沈黙を破ったのは、中央に座す情報本部総監だった。
「よろしい。敵の内部構造と支配層の断片情報、そして軌道資源ルートの現状把握……いずれも貴重な戦果だ。よくやった、少佐」
「光栄です、閣下」
レオンは無感情に近い、抑制された表情で一礼した。その顔に誇りや安堵の色はない。ただ、任務を果たした者の静かな確信だけが宿っている。
「次の任務が発令されるまでは本艦で待機せよ。肉体調整と戦術記録の同期も怠るな。それだけだ」
ホロスクリーンが消えると、艦橋には重苦しい静寂が戻った。
「……ふぅ」
ようやく吐き出した息は、わずかに冷えた空気を震わせる。それに重なるように、背後の扉が開いた。
現れたのは銀髪の青年将校――副長のゼフィリウス中尉だった。無駄のない動作でレオンに近づき、慣れた調子で声をかける。
「少佐、報告お疲れさまでした。例の書類、整えてあります。医療検査の予約も通しましたので、あとでご案内を」
「手際がいいな、ゼフィ。……だが、気を遣うな」
「お気遣いなく。任務のうちですから」
レオンは唇の端をわずかに上げた。ほとんど表情を見せない彼にしては、それは上機嫌に等しい。
ゼフィは笑みを浮かべながら、話題を変えた。
「それにしても、帝都では不穏な噂が飛び交ってますよ。“そろそろ始まる”と」
「何がだ?」
「戦争です。今年中に火蓋が切られるんじゃないかと、ささやかれてます。補給艦隊の拡充、演習の増加、艦隊再編……誰が見ても、これは“準備”ですよ」
レオンは答えず、静かに艦橋の前方へと視線を移した。装甲ガラス越しに広がる宇宙の海は、無数の光点を湛えて穏やかに脈打っている。
「……火が灯るには、まだ時間が要る。準備が整っていても、“機”が熟していない」
「やはり、そうお考えですか」
「王国はまだ本気ではない。帝国も然り。牙を剥くには、“理由”が要る」
「とはいえ、陛下のことです。“くだらない理由”でも開戦の口実にしかねませんよ」
ゼフィが肩をすくめて笑うと、レオンも小さく息を吐いて応じた。
「くだらない理由でも、勝てるなら構わん。だが――勝てない喧嘩は、我が軍の流儀に反する」
「はは、まったくです。少佐がそう仰るなら、安心して構えていられます。今年は静観、ですかね」
「静かに……牙を研ぐことになる」
ゼフィが敬礼し、軽やかな足取りで退出すると、艦橋には再びレオン一人が残った。
しばしの沈黙。彼はそっと背筋を伸ばし、背後のドアに背を向けて、再び窓の外へ目をやった。
「銀色の機体……あの加速」
誰にともなく漏れた声は、微かな熱を帯びていた。
「あれはただの傭兵ではない。手合い違いの雑兵でもない」
その動き、機体特性、戦術判断――どれも並の傭兵に収まるものではなかった。
「もう一度、見る機会があるか……?」
それは戦場か、あるいは――別の舞台か。
光を帯びた星々の中に、彼はあの姿を探していた。
土日はゆっくりストックを準備しなくては




