001 目覚めそしてカウントダウン開始
ご閲覧ありがとうございます。
SF小説書き始めました。
少しでもお楽しみいただければ幸いです。
視界がぼやけていた。
ふわふわとした浮遊感の中、呼吸のたびに胸の奥がチクリと痛む。冷たい液体に包まれていた体がゆっくりと引き上げられ、何かが開いた音がした。
「っぷは!」
思わず肺の奥から空気を吸い込み、咳き込む。
薄暗い室内。金属とガラス、そしてほんのり薬品のにおい。立ち上がった俺の目に不思議な光景が映った。
《位置:セクションB-12 医療再生区画》
《状態:生命活動正常/機能安定》
《周囲環境:安全》
「な、何だこれ? 目の中に……何かが映ってる?」
視線を向けた先に、情報のウィンドウが浮かび上がる。現実の景色に、文字とデータが重なって見える。まるでSF映画のインターフェースみたいに。
「驚かないでください。それはあなたの義眼によるAR機能です。ようこそ、《ネメシス》へ」
唐突に、頭の中へ直接響くような声がした。柔らかく、それでいて無機質な女声。
「私は本船の管理AI、“ナビ”と申します。あなたは今、私の指示により再生処置を受け、目覚めました」
「ちょっと待て。ここはどこだ? 俺は誰で、何で、目がこんな機能付きなんだ!?」
「順を追って説明します。まず、あなたが現在いるのは、全長50kmの移民船。そして残念ながら、この船はあと330日で恒星に衝突して消滅します」
「は?」
AIの言葉に、思考がフリーズした。
「現在、航行機能は完全に失われ、進路の修正は不可能です。恒星カリオペまでの衝突猶予は330日。これがあなたの残された猶予です」
「待って。なんでそんな終末的状況で、俺は目覚めたんだよ?」
「それは《種族保存プログラム》が発動したためです。船が消滅する直前、遺伝子バンクから適合個体を再生し、人類文明を“記録として”継承するプロトコルが実行されました」
「それってつまり、俺がその再生個体?」
「はい。あなたは地球系人類文明において保存されていた、最後の有効な遺伝子情報“クラフト・ヤマモト”のデータから生成された生命体です」
「最後って、一人だけ? 他には?」
「残念ながら、完全な遺伝データが残っていたのはあなた一名分のみでした。ちなみに他のデータは腐敗または断片化しており、再生には至りませんでした」
「種族、保存っていうか、俺だけかよ。」
溜息をつく。状況が悪い。どころか最悪だ。
目覚めたら宇宙船は沈みかけ、仲間も家族もいない。俺は、たった一人の人類として生き残ったらしい。
「この船に、使える宇宙船はあるのか?」
「ありません。メインの推進システムは停止し、緊急用シャトルも損傷。現時点で自力で航行可能なユニットは存在しません」
「おいおい、絶望フルコンボかよ!」
「なお、艦内には自律都市区画と資源処理プラント、さらに造船ドックもあります。あなたの裁量次第で」
「って、おい! もうちょい重要な情報を先に出せ!」
「あなたの情報処理速度を確認中でした。現在は、軽口による緊張緩和を優先しています」
「どこの接客AIだよ」
ナビとの口喧嘩を交えながら、俺は少しずつ《ネメシス》の構造を把握していった。
居住エリアに向かえば、まるで未来都市のような都市区画が広がっていた。だが人の気配はゼロ。ロボットもほぼ停止状態。壁のスクリーンには、古びた記録映像が延々と流れていた。
「誰もいない都市って、想像以上に寂しいな」
けれど、希望もあった。
「ここは、食料プラントです。現在も自動水耕栽培および合成タンパク質製造ラインが稼働中。食料供給に支障はありません」
「まじで? 食うには困らないってことか?それはありがたい」
そして、艦の奥部造船ドックへ。
広大な格納空間に、朽ちた宇宙船の山が広がっていた。
その一つに目を向けた瞬間、また目の中に情報が表示される。
《分類:カヴァーン式貨物艇》
《損傷率:89%/推進機関:失効》
《エネルギーセル:型式不明/要再構築》
「マジか、これ全部使えるのか?」
「理論上は可能です。部品の組み合わせと再加工により、新たな宇宙船を造ることは……まあ、“あなた次第”ですね」
衝撃だった。けれど、同時に、俺の心に火がついた。
宇宙を漂う移民船。
人類最後の一人。
そして、希望ゼロの現実。
けれど、俺の目には数百もの宇宙船の残骸が見えていた。
義眼のARが解析し、頭の中の電脳が無数の技術データを呼び出す。
知識はある。素材もある。
ならやるしかないだろ。
「よし。船を作る。DIYで、最高の一隻を」
恒星衝突まで、あと330日。
間に合わせてみせる。この巨大な棺桶から脱出するために。
活動報告に朗読動画の案内も記載したのでそちらも是非ご覧いただければと思います。