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誰もいない宇宙船で目覚めたら最強だった件について  作者: Sora
二章 ターリーズ星系メタ王国編

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19/84

018 惑星降下、初めて見る景色

仕事の後は体を休めないと

海賊の拠点襲撃から数日が経過し、ギルドからの報酬も受け取って、落ち着いた時間を過ごす。メタ王国の軌道コロニーに停泊しているシルバーナでは、クレアが装備の点検を進めている。

クラフトはコックピットのシートにもたれ、窓の向こうに浮かぶ青緑の惑星アウリスをぼんやりと眺めていた。

恒星に墜落しかけた移民船を脱出し、命からがらこの宙域にたどり着いてから、短期間でいくつもの戦闘を経験した。最初に海賊船を釣ったのがとても昔に感じる。その後海賊討伐、テロ事件に巻き込まれ、クレアと出会い、海賊艦隊の拠点を奇襲した。息つく暇もない日々だったせいだろう。

今は、当面の資金も十分にある。ダイリチウムの売却益と戦果報酬を合わせて、クレジットの残高は15億を超えている。これは一般的な人の人生5回分に相当する稼ぎだ。

しばらくは、無理に稼がなくてもいい。そう思えるだけの余裕がようやくできた。

「キャプテン、そろそろ点検、整備も終わりますが、次の予定はお決まりですか?」

クレアがタブレット型の端末を手に近づいてきた。落ち着いた口調と柔らかな声が、艦内に心地よく響く。

「まだ決めてないけど……」クラフトは大きく背伸びをし、ガラス越しに広がる惑星アウリスを見つめた。「せっかくメタ王国まで来たんだ。あの星に、まだ一歩も降りてないのはもったいないよな」

「はい。シャトルでの降下申請は、傭兵ギルドを通せば即時承認されるはずです。必要な座標データと申請書類は、港のポータルから入手しております」

「さすがだな。……そういえば、ギルドの掲示板で温泉施設の話を見た気がする」

「はい。候補地として、こちらの施設をおすすめします」

クレアが拡大表示した地図には、《アウリス》の赤道近く、山と湖に囲まれた静かな高原地帯に、小さな温泉リゾート施設が示されていた。その名は《アスハラ湯泉》。

「王室御用達ではありませんが、歴史ある施設です。医療型人工鉱泉と天然の蒸気風呂、リラクゼーション・サービスも整っており、療養にも適しています」

「いいね。そこにしようか。たまには骨休めもしないとな。クレアは他にどこか行きたいところはあるのか?」

「私は、どれも初めての経験ばかりですので」

「俺も似たようなものだよ」

「では、シャトルの発進準備に入りますね。気温差が激しい地域ですので、外気温への耐性を考慮した衣類も持参いたします」



翌日午後、小型シャトルが、ゆっくりとシルバーナの後部から発信する。軌道コロニーを出て、クラフトとクレアを乗せたシャトルは大気圏へと進入していった。

大気圏突入中のわずかな揺れに体を預けながら、クラフトはちらりと隣に座るクレアを見た。

「ナビを連れてこれないのは、ちょっと寂しいな」

「はい。彼はシルバーナの中枢制御に統合されていますので、船を離れることはできません。ですが……録画映像くらいなら、お土産にお渡しできます」

「……はは、それで満足するかは怪しいけどな」

機体が雲を抜けると、眼下には青々とした森と、銀に光る湖が見えてきた。その中に、ひっそりと建つ温泉施設の建物群が確認できる。着陸許可を得たシャトルは、施設の横に設けられた小型艦艇用の駐機場にスムーズに降りた。

「到着しました。外気温は18度。湿度68%、風速4メートル。快適な気候です」

シャトルのハッチが開き、クラフトたちは地表へと降り立った。森の香りと、地熱に混じった微かな硫黄の匂いが鼻をくすぐる。

「これが地表か。宇宙港のにおいとは全然違うな」

「キャプテン、こちらが施設の入口です。チェックインは私が行います」


《アスハラ湯泉》の内部は、落ち着いた木造の装飾が施され、温もりと静寂に包まれていた。部屋に案内されたあと、クラフトは館内着に着替え、露天風呂へと向かった。

夜の帳が降りた高原地帯。星々の瞬きが、空いっぱいに広がっている。湯船に浸かったクラフトは、深く息を吐き、全身の力を抜いた。

「ふう……これだよ、これ」

「湯加減はいかがですか?」

隣にそっと入ってきたクレアが、湯面の反射を受けてほのかに輝いている。

「完璧。このお湯がまた格別だ」

「はい。疲労回復と筋肉痛緩和に効果がある成分が含まれており、長湯にも向いております」

「ほんと、安心して休めるな」

「よかったです、キャプテン」

二人はしばらく、静かな湯けむりの中で黙って星空を見上げていた。

「このまま、1か月くらい滞在したいくらいだ」

「延泊も可能ですが、ナビがどう反応するか微妙です」

「ですよね~」

クラフトは笑って天井を見つめた。

夕食には魚の蒸し焼きと香草のリゾットが供された。

「まさか、こんな食事が出てくるとはな」

「地元の食材を活かした、四季折々の献立だそうです。キャプテン、私に食事を食べられる機能を付けていただいたことを心より感謝します」

2人は舌鼓をうったよ。


宿の主人が「近くの稜線からの景色は一度見ておくことをおススメしますよ」と教えてくれたのがきっかけだった。

昼食を済ませたあと、クラフトとクレアは軽装で出かけた。

道は整備されており、初めての登山でも迷うことはなかった。とはいえ、高度差600メートルはそれなりにきつい。

「……息が上がってきたな」

「お疲れ様です、キャプテン。でも心拍数は正常範囲内。あと15分ほどで頂上です」

クレアは微笑みながら、軽々と登っていく。

そして登頂。尾根を抜けた瞬間、視界が一気に開けた。

濃紺の空と白い雲、遠くには軌道エレベータが一本、天へとまっすぐ伸びている。

「すごい……」

クラフトは思わず息を呑んだ。初めて見る景色だ。

クレアが、彼の隣にしゃがんだ。

「私には“美しい”という感情の定義が、まだ曖昧です。でも、いま見ているものが、それに近いということは、わかる気がします」

クラフトは頷き、風を胸に吸い込んだ。

「俺もだよ。惑星に降りるのも、山に登るのも、こんな景色を見るのも初めてだ。……いいもんだな」

「ええ、本当に」

「またどこか、登ってみるか。次はもっと高いところでも」

「もちろん。どこまでも、ご一緒します」

青い空の下、二人の影が並んで伸びていた。

いつも読んでいただいてありがとうございます!

6月13日金曜日は外出のため1話のみの更新になります

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― 新着の感想 ―
食事を食べる アンドロイドなのになかなか高度な話法だな
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