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誰もいない宇宙船で目覚めたら最強だった件について  作者: Sora
二章 ターリーズ星系メタ王国編

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014 報酬受け取りと面談

交易コロニーの港区画に、シルバーナが帰還する。修理の必要はないが、表面には宇宙塵の煤と焦げ痕が浮き出ていた。

ブリッジでは、クラフトが通信パネルに表示された明細を見つめながら口元を緩めている。

「小型艦9隻で2700万クレジット、中型艦1隻で450万。合計3150万か……悪くないどころか上出来だな」

『反応弾のコストを差し引けば、純利益は1650万クレジット前後です』

「そうは言っても、たった数分で相手の大半を消し飛ばしたんだ。十分すぎる効果だったよ」

『効率は確かに良好です。しかし……』

「ん?」

『この笑顔、損益よりも“額面”の数字で喜んでますね。表情から読み取りました』

「……お前、性格悪くなってないか?」

ナビの反応はなかった。だが、どこか勝ち誇ったような無音が、静かにブリッジに漂った気がする。

そのとき、新たな通信が届く。

『ギルド本部より、面談の要請が入りました。報酬手続きと並行して、戦術選択に関する聞き取り面談とのことです』

「……あの戦法、やっぱ気になるか」

クラフトは肩をすくめて椅子から立ち上がった。

「行ってくる。でも人と話すの苦手なんだよな」

ギルド支部の応接室は、簡素ながら品のある内装だった。クラフトが通された部屋にはすでに二人が待っていた。

一人は、端末を携えた40代の男性。落ち着いた声で名乗る。

「戦闘記録課主任のセノーです。今回の作戦、拝見させていただきました」

もう一人は、長い黒髪をきれいにまとめた女性職員だった。控えめな眼鏡と整った顔立ち、紺色のスーツ姿がよく似合っている。

「戦略分析室のエリス・レインフォールと申します。まずは、今回の見事な戦果に、心より感謝を」

クラフトは軽くうなずいた。

「どういたしまして。仕事ですから」

「海賊勢力をこれほど一掃したのは、近年でも珍しい成果です。小型艦9隻、中型艦1隻。撃破数としても申し分ないですし、見事な手際です」

セノーが補足する。

「30隻の撃破が、シルバーランク昇格のひとつの基準になります。今後も安定して戦果を挙げられれば、昇格もそう遠くないでしょう」

「ありがたい話ですね」

クラフトは気取らない調子で言った。

しかし、エリスが表情を少し硬くする。

「今回、反応弾を三発使用されましたね。市場価格で、一発500万クレジット。合計1500万相当の高価な兵装を、一戦で使用したことについて、上層部で少々意見が出まして」

「ただ、必要だった。それだけです」

クラフトの声は淡々としていたが、芯は揺らいでいない。

セノーが頷く。

「記録を見る限り、あなたの判断は合理的でした。結果として、被弾も少なく、損失はゼロ。何より、逃げ出した海賊艦を一隻も出さなかった。これは評価に値します」

「じゃあ、他に何か問題が?まだ駆け出しの傭兵なので指摘やアドバイスには誠実に対応したいとおもう」

「いえ、問題はありません。確認したかったのは一点。……あなたの身元です」

エリスが目を伏せたあと、真っ直ぐにクラフトを見た。

「過去にも、王侯貴族や軍の高官の子息が、正体を隠して傭兵登録した例があります。戦術判断に迷いがなく、資金にも余裕がある。そういった背景をもつ登録者も、少数ながら存在してきました」

クラフトは小さく笑った。

「なるほど、俺が“いいところの坊ちゃん”に見えたと」

「いえ、見た目ではなく、選択の速さと迷いのなさが……」

「ただの流れ者ですよ。金も、地位も、過去もない。あるのはこの船と、俺自身だけだ」

エリスの顔に、ほんの少し安堵の色が浮かぶ。

「納得しました。こちらの確認も、これで完了です」

セノーが手続きを終えると、クラフトは立ち上がった。

「それじゃ、報酬はしっかり受け取って帰らせてもらうよ」

「ええ、今後の活躍を楽しみにしています。クラフトさん」

エリスの声には、先ほどよりも明るさがあった。

帰路、クラフトは港区画へ向かいながらナビと通信を繋いだ。


「戻った。無事、面談終了」

『怒られましたか? ちょっとニヤけてますけど』

「怒られたというより……心配されたって感じだな。高価な武器を惜しげもなく使う奴は、素性を疑われるらしい」

『なるほど。資金の出所、背景の確認。もっともな対応ですね』

「それより……エリスって職員、なかなか綺麗だった」

『あ、やっぱりニヤけてましたね』

「うるさい」

しばしの静寂ののち、ナビが少しだけ真面目な調子で話しかけてきた。

『ひとつ、聞いてもいいですか?』

「なんだ?」

『あなたが傭兵登録を終えてすぐ、今回のミッションを引き受けた理由です。もう少しコロニーで滞在し、慎重に選ぶと思っていました』

クラフトは、透明な隔壁から外に見える星々を眺めながら答えた。

「ギルドで被害報告を聞いたあと、街のカフェに入ってな。そこで、子どもが笑ってるのを見た。年寄りが安心してお茶を飲んでるのもな」

『……』

「そういうのを、維持するためにできることがあるなら。そう思っただけさ」

通信の先でナビが静かに答える。

『人類らしい考えですね』

「そうか?」

『はい。少し安心しました。守銭奴の気質を持つあなたが、“そういう判断”もできる人でよかったです』

苦笑

クラフトは軽く鼻を鳴らして歩き出した。艦に戻れば、また次の依頼を考える日々が始まる。

だが今、彼の胸にあったのは数字ではなく――小さな“誇り”だった。


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