013 海賊討伐
すいません、古い方を公開していました。
差し替えます。
「確認完了。クレジットの受け取りは問題ありません。」
クラフトはドックを出て、海賊討伐に向かいながら、ブリッジの端末で、受け取ったばかりのギルド送金を確認していた。荷物の引き渡しと決済は、朝のうちに滞りなく済ませた。思ったよりも円滑で、拍子抜けするほどだ。
「この世界の物価はまだよくわからないが……まあ、当面は資金に困らんだろう。」
彼は椅子にもたれながら、艦内の照明をやや落とした。
「ナビ、作戦会議だ。海賊討伐について方針を詰める」
『了解。最新のギルド情報と航路被害マップを表示します』
ブリッジの正面に展開されたホログラムには、星域全体に点在する襲撃の記録が浮かび上がる。広範囲に散らばる赤い点は、すべて海賊による襲撃の痕跡。
「場所がバラバラだな。つまり、逃げ足の早い艦だ。発生してから向かったんじゃ間に合わん」
『追撃は非効率です。待ち伏せが最も現実的です』
「なら釣るしかない」
クラフトは微笑んだ。
「ダイリチウムを積んでいるように偽装したダミーデータを流しつつ、遭難信号も出す。あるいは、海賊が好みそうな航路をふらついて、隙を見せる。確実に食いついてくるさ」
『成功率は高いですが、敵が大規模だった場合はリスクが跳ね上がります』
「それも想定済みだ。釣り場は小惑星帯の近く。あらかじめ反応弾を数発配置しておいて、敵を誘い込む。そこで一網打尽にする」
「反応弾は大型戦艦クラスの撃破に使うものだから広範囲の小型から中型鑑を一掃できるはずだ」
『反応弾の制御はシルバーナから遠隔で行えます。タイミングさえ合えば殲滅可能です』
「問題は、残党が逃げた場合だ。数が多ければ無理せず撤退する」
『では作戦開始しますか?』
「やろう」
作戦開始から2日間、デルタ・ヴェイル小惑星帯の縁でシルバーナはじっと漂っていた。エンジン出力を最低限に抑え、艦の積載情報を「高純度ダイリチウム2200キロ」に偽装しながら、断続的に遭難信号を発信する。
しかし、釣れない。
「誰も来ないな。こっちの餌がショボかったか?」
『反応はありません。敵が慎重になっているか、別のルートに集中している可能性も』
「じゃあ移動しながら釣るか。小惑星帯の端を回りつつ、偽装は継続だ」
艦はゆっくりと軌道を変え、より交通量の多い辺縁宙域へと向かう。作戦再開からおよそ12時間後、ついにアラームが鳴った。
『複数の高速艦を感知。接近速度、戦闘モード。通信が入ります』
通信画面に、粗末な操縦席からこちらを見下ろすような男の姿が映る。汚れたマスク、顔面の傷痕。明らかに海賊だ。
『こちらアスタロト・レイダーズ。積荷を渡せ。抵抗すれば、お前の艦を宇宙のチリにしてやる』
クラフトは一言も返さず通信を切った。
「敵艦の数と構成を」
『小型戦闘艦が9、後方に指揮艦らしき中型艦1。合計10隻。全艦が交戦態勢』
「よしやるぞ」
ブリッジが赤く染まり、戦闘態勢へと移行する。クラフトは操縦席に深く腰を下ろし、操縦桿を握った。
「近接迎撃モード、ブラスター、パルスレーザー起動」
敵が散開して突っ込んでくる。クラフトは姿勢制御を操作しながら、ブラスターを発射。高エネルギーの光線が真っすぐ敵高速艇の1隻を貫き、爆炎が宇宙に散った。しょぼい海賊船のシールドとはいえ、それを一撃で貫くこの艦のブラスターの威力はやはりちょっとおかしい?
「1隻撃墜。次、来るぞ!」
『パルスレーザー、左舷方向』
海賊のパルスレーザーはシルバーナのシールドで阻まれた。
「右舷からもう1隻!」
クラフトは艦を横滑りさせながら、照準を合わせて2門のブラスターを同時に撃った。敵艦の装甲が焼き切れ、2隻の海賊船は火花を散らしながら回転し、コクピットごと吹き飛んだ。
「3隻、撃墜」
だが、まだ7隻が残っている。
『クラフト、敵艦の一部が回り込んでいます。防御限界を超える恐れあり』
「分かってる。釣れたからには——引っかけるぞ」
クラフトは操縦桿を大きく倒し、シルバーナを小惑星帯の内部へと滑り込ませた。
「ナビ、反応弾起爆制御を起動。あらかじめマークした宙域、侵入確認次第で爆破だ」
『5、6、7……現在、7隻の敵艦が追尾して小惑星帯に進入中。反応弾エリア内に突入』
「全部まとめて消し飛べ」
クラフトがスイッチを叩くと、宙域の一角が白く光った。無音の爆発が連鎖し、小惑星を巻き込んで反応弾が炸裂。遮蔽物を利用していた海賊艦が逆に包囲され、逃げ場を失ったまま次々に爆散する。
ホログラム上の敵反応が、点滅しては消えていった。
『6隻の反応消失を確認。最後尾にいた1隻は無事のようです。残存は指揮艦1隻のみ』
「そいつも、逃がさない」
シルバーナは大きく旋回し、遠ざかろうとする指揮艦を視界に捉えた。距離は離れつつある。十分な余裕はない。
「ブラスター、最大出力。シルバーナの姿勢制御を行いながら照準を合わせる」
「ファイア!」
白い閃光が一直線に走り、指揮艦の船体を真正面から貫いた。エネルギーの余波が爆発を誘発し、艦全体が赤く染まったかと思うと、音もなく崩れ落ちていく。
『最終目標、撃破確認』
クラフトはしばらく無言だった。やがて深く息を吐いて、静かに呟いた。
「完了、か。今回は上出来だったな」
艦内に戦闘終了のアラートが鳴る。彼はシートに背を預け、次の一手を考え始める。
「さて……報酬と報告、そして整備の手配だな。ナビ、ギルドに連絡を入れてくれ」
『了解。戦果報告をまとめます』
クラフトの視線は、静寂を取り戻した宙域の向こうへと向けられていた。




