010 コロニー到着、そして・・・
クラフトは寝ていた。とても気分よく、穏やかな眠りだった。だがその静寂は、突如として破られた。
あたらしい朝が来た 希望の朝だ よろこびに胸を開け 青空仰げ
最大音量の音楽が船内に響き渡る。
「……っ! ナビ、音楽を止めてくれ!」
《了解。音楽停止します》
クラフトは顔をしかめながら寝台から起き上がった。
「いったい何なんだ、今のは……」
《地球文明における古典的な起床音楽の一つです。外宇宙航行中の船で、起床時間に流すことが通例となっていました》
「誰がそんな設定した……いや、もういい。今は何時だ?」
《現地時間に換算すれば、午前5時32分。しかし、正確には朝ではありません。現在、コロニーとの通信圏内に入りました》
「なるほどな。到着のタイミングで起こされたってわけか……」
ぶつぶつと文句を言いながら、クラフトはブリッジへと向かった。メインスクリーンには、巨大な円筒形構造物――メタ王国交易コロニーが映し出されていた。
「ナビ、着艦申請を頼む」
《通信接続完了。コロニー側より返答があります》
『こちらメタ王国交易コロニー。ドック使用希望者は、機体名と識別コードを送信してください』
「こちら、船名はシルバーナ。識別コードは現在未登録の新造船だ。鉱石の販売を目的として立ち寄った。着艦を許可願いたい」
『了解。ドックA10を指定する。自動誘導に切り替え、誘導信号に従え』
《了解。操縦を自動モードに切り替えます》
シルバーナは滑らかに動き、指定されたドックへと向かっていく。
「いやはや、実にスムーズだな。まるで海賊船のデータ通りの対応……これは助かる」
クラフトは満足げにモニターを眺めた。
やがてシルバーナがドックに収まると、船体横にタラップが自動で展開された。
《ドック気圧安定確認。外部環境は適正です。出られます》
「よし……いよいよだな」
クラフトは深呼吸し、ハッチを開いてタラップを降りた。ドック内にはスタッフらしき人物が数名待機していた。
「ようこそ、交易コロニーへ。入港手続きはあちらのカウンターで行ってください」
案内用のアンドロイドがカウンターを指し示す
案内された方向へ歩いていくと、手続きカウンターに一人の女性が座っていた。
(……きれいだ、移民船の船のストレージからこの辺りの種族の容姿は確認していたが
人類でいう、美男美女が平均的容姿の種族だった。実際にあうと思わず見とれてしまう)
生まれて初めて、AI以外の存在――しかも女性を目の当たりにして、彼の鼓動は高鳴った。
「いらっしゃいませ。入港手続きを行いますので、必要事項をこちらに入力してください」
「あ、はい……」
はずかしい、ちょっと声がうわずった
クラフトは慣れない手つきで端末に入力する。滞在は2週間、宿泊施設は利用せず、補給品については後ほど確認する形にした。
「手続きは以上です。代金は今、お支払いになりますか?」
「うん」
腕輪型端末を決済機にかざすと、ピッという音とともに処理が完了した。
「ありがとうございます。こちらがコロニー内のマップになります。目的地があればお知らせください」
「傭兵ギルドの場所を知りたい」
「かしこまりました。こちらになります。ゲートを出てすぐ、左手の無人ビークル乗り場から行けます」
「助かる」
クラフトはマップを受け取ると、入港ゲートへと向かった。
そしてゲートを抜けたその瞬間、目の前に広がる光景に言葉を失った。
巨大な円筒形の内壁に、都市が張り付くように構築されている。人工の空、太陽を模した照明、緑に包まれた公園と、整然と並ぶ高層ビル。
それは、まるで地球の理想郷を凝縮したかのような美しさだった。
「すげぇ……」
クラフトはしばらく立ち尽くしていた。
《キャプテン、無人ビークル乗り場は左手にあります》
「ああ、分かってる……行こうか」
こうしてクラフトは、宇宙で初めて出会う本当の人々と世界へ、最初の一歩を踏み出したのだった。




