違和感
きーんこーんかーんこーん・・・・
お約束のチャイムが鳴って、蒼紫は2-3の教室に駆け込んだ。
その瞬間、彼を見た、クラスメイトのびっくりした顔が重なった。まじめな彼は遅刻なんて絶対したことがなく、彼が教室に駆け込むということがみんな信じられないようだった。
そんなみんなの顔が面白くて、彼はおもわずふっと笑った。
それも一瞬のことですぐにいつもの仏帳顔に戻ったが、クラスの女子はそのあまりにも優しい笑顔を見逃すことはなかった。元々中性的な顔立ちで少し日に焼けた顔は整っているというよりも好感が持てる顔で、さっきのように時折見せる笑顔が優しくて人気があるというのは女子の間で常識であった。蒼紫自身は自分の外見が他の人よりもいいという事実を全然気にしていないというように装っていてもやはり少し嬉しく思っていた。しかし、それ以上に彼は自分の外見そしてDNAまでもが自分を自分で無いと証明していると分かりきっていたので外見や態度によって自らをころころ変える彼女たちをわずらわしくも思っていた。
彼を担任の先生がまだ来ていないという事実が少し余裕を取り戻させ、いつもの歩き方で蒼紫が席につこうとした瞬間、先生がおもむろに扉を開けて入ってきた。
おそーいと幾人かの女子の声が聞こえ、男子は「きっと昨日彼氏といちゃいちゃしてたんだぜっ!」と自分はさも大人の事情を知っているかのように言いたい少年の心理の賜物であるかのようなことを大きな声で言った。
先生は黙っていた。一通りの騒ぎが収まるまで彼女はいつも待っていた。たとえ喋りだすきっかけがいかにくだらなくとも、子供はしゃべるきっかけを渇望しているし、一通りしゃべり終わるまで自己の表現が稚拙な彼らは時間が掛かる。しかし、それ以上に今思ったことを今しゃべれないとなにを言いたかったのか忘れてしまうという空虚な会話のある種必然的な産物を彼らは極端に恐れていると言うことを子どもであった彼女は知っていたからだ。
しかし今日の沈黙はいつもと明らかに違っていた。なにからしていいか分からない若者のようでもあったし、なにをするべきか忘れてしまった老人のようにも見えた。
顔は青白く、彼女のかみ締めた唇のルージュは少しはげていた。
先生のいつもとの違いに気づいた生徒たちは一人一人と会話をやめていき、そして
誰もしゃべらなくなった。
その圧迫された緊迫感の中で蒼紫は胸がちりりといたんだ。
その痛みはかすかな確信を持って広がり、そして霧散しきれずに胸に残った。
「実は、最近起きている連続殺人の魔の手に・・・・昨日の夜、このクラスの仲間になるはずだった少年が一人かかってしまいました。犯人はすぐ取り押さえられたみたいですが、
彼女はここで言葉を切ってまっすぐに蒼紫を見つめた。その寸分たがわずに彼のさっきまで砂を流すよう努力していた目を見つめる彼女の目じりは彼をまっすぐ見つめれば見つめるほどに、赤くなっていった。そしてそれに答えるようにますます蒼紫の胸の違和感も大きくなっていった。
殺されたその子の名前は・・・・日比野蒼紫。今日から、この2-3の・・・・仲間になるはずでした・・・・。」
彼女はそれだけ言うとせきを切ったように泣き出した。彼女の朝礼時の口はその悲劇を伝えるだけにのみ使われて後は嗚咽の漏れるだけになった。
そのために生徒たちは情報をより求めるためにいっせいに蒼紫のほうを向いた。
「・・・・ねえ・・・日比野、隆聖君。死んじゃった、蒼紫って子と、関係・・・あるの?」
おそらくクラス全員が聞きたかったであろうせりふを蒼紫に向かったいったのは好奇心と哀れみと少しの優越感を持って生まれた人間の代表者であるかのようなクラス委員の少女だった。
公共だけでなく、みんなの心の秩序をも守るべき番人と化した彼女の一撃をクラス全員が望み、銃に弾丸を共にこめた。その割にみんなは真実という結果だけを求め、銃を引く重荷に耐えるのを拒否するのだった。その矛盾と彼女たちの生まれながらに持つその性質を惜しみなく発揮したその弾丸はは蒼紫の胸の違和感を広げる手助けをしたに違いなかった。
だが蒼紫はそれを聞く事もなく、大きくなりすぎてある種のむずがゆさを感じさせるまでになった胸の違和感を抱えながら世界が暗転するに任せた。




